一振りの折れた剣大きな問題を、片付けなければならなくなった。 ラクアの海岸で、僕は白波打ち寄せられる波打ち際でレナとほんの少し話をした。
ラクールで、決戦の舞台エル大陸へ渡る船が出る数分前になって、 前線基地で共に戦ってきたディアスが僕を呼び止めてきた。 ディアスは最後の防衛線を護るべく、前線基地に残ることを選んだ。 「何、ディアス。 ……船出ちゃうよ?」 「これを。」 ディアスが渡してきたのは、前線基地での戦いで、立て続けの連戦に耐えかねて折れた彼の剣。 「この剣は俺がずっと使ってきた剣だ。 ……まぁ、こうして折れてしまったが… 素材としては丈夫なもんだ。 打ち直すなり作り直すなりして、再利用しても構わん。 ………俺の代わりと言っては何だが、決戦の地に連れていってくれないか。」 「この剣を?」 ど真ん中からぼっきり折れたその剣の柄は、かなり使い込んできた!というのがすごく伝わってくるくらいボロボロだった。 滑らないように巻いた皮ひもを、何度も何度も巻き替えてきたに違いなかった。 「ずっと使ってきた剣だ。 …俺の身体の一部と言っても過言ではない。 だから、お前に持っていてもらいたいんだ。」 そう言って、ディアスはふぃっと恥ずかしそうに顔を背けてしまった。 …さっき僕が、一緒に行かないのかよ!ってごねまくったから、その慰めに持ってきたのかな。 これがあるから寂しくないよ、とでも言うように。 「わかった。 …あんたの魂、持ってくよ。」 僕は、彼の気持ちを勝手に解釈して、剣を受け取った。 多分、無意識のうちに嬉しそうな顔をしていたんだと思う。 ディアスが、横目でこっちを見たかと思うと、完全に顔をこっちに向けてきたから。 それからほどなくして、後ろの方で「船が出るぞー!」って声がした。汽笛の代わりに。 「クロード。」 ディアスが船からちょっと離れながら呼んだ。 「離れていても、目指すものは同じだ。 そうだろ。」 彼はそう言って、僕に背を向けた。 ……残念だけど、僕は最初、その言葉の意味をまったくわかっていなかった。 今でもはっきりと思い出せる、彼との最後の会話。
自分で言った声も、ディアスが言った声も、全部聞こえなかったような気がした。 それでも、ディアスがクックックッと目を閉じて笑っているのを見た感じでは、多分一致しているんだろう。 ひとしきり笑ったところで、ディアスがフーッとため息をついて、もう一度改めて僕を見てきた。 「クロード。」 「ん?」 「…ありがとう。」 「何、急に。」 「ここまで、“俺”をつれてきてくれて。」 そう言って満足げな笑みを浮かべた彼は、うっすら発光し始めた。 「……やっぱり…幻なのかい? 今の君は。」 なんとなく訊いてみた。 …が、ディアスはなんにも言わずに僕の前でゆっくりと立ち上がり、僕に背を向けた。 「それとも…この剣に宿った“魂”?」 そう問いかけてみると、彼はくすっと肩をゆすって笑った。 「さて。 お前がそう思うのなら、きっとそうなんだろう。」 そのまま彼は、振り返らないまま歩き出して、
でも、彼が歩いていったあとには、ちゃんと足跡があった。 「……幻なんかじゃないよな。足跡あるし。」 僕の傍らには、確かに彼の座っていた跡もちゃんとある。 …だから、幻だとは思いたくなかった。 鈍い輝きを放つ、一振りの折れた剣に僕は、軽く頭突きしてやった。 「待ってろよ。 …全部終わったら、また会いに行ってやる。」 それが、僕のラクアの夜だった。 |
未成年の主張?(笑) もう未成年じゃないからぐじゃぐじゃしたモノを肌で感じることってあまりできないのかもしれない。 でも逆に、そのぐじゃぐじゃしたものの出口も知ってるワケで♪ そんな状態で描いてみました。 ディアスって、クロードにとっては目標「追いかけるべき背中」を持った男だと思うんですよね。それは昔から変わってないんですけど。 ただ、ディアスが仲間になるレナ編とは違い、クロード編はディアス不在で物語すすんじゃうから、ディアスの背中のみを追う!ってことはできなくなると思うんですね。 じゃあクロード編でクロードはどう成長するのか、最終的にどんなコになるのか。 主人公だからリーダー的男に!ってのはまぁわかりますが、それを細かく分析したらどうよ?とか色々思ってたんですよ。 で、考えてばっかりいても仕方ないし、って思って描いてみたんです。 ちなみに終盤の『 』って部分は、呼んだあなたの思い描いた言葉を当てはめていただきたい。 問題は解決しなきゃいけない。 自分は部外者さ、と逃げることは簡単ですが、問題とはいつでも自分で考えなきゃいけないものですから、せめてコレを読んでいる人は、自分で『』の中を埋められるような人間であって欲しいと思うのです。 |