道化の役目「よ! セリーヌ!今日もいいケツしてんな!」 ギヴァウェイで、レオンは寒さに耐えかねて、フロントにある大きな暖炉の前にやってきた。 それからほどなくして、一行はラクアへ案内され、フィーナルの地へ足を踏み入れた。
だが、レオンの腕は体術向きではないし、ボーマンは身一つで戦えるよう鍛え上げられている。 にぶい手ごたえとともに、レオンははじかれるように後ろに身をそらしてしまう。 それでも、レオンはもう一度叩き込んだ。 「みんな、不安で不安で仕方ないって時に!! どうしてそんなに笑ってられるんだよ!! エクスペルがなくなっちゃった時だって、そうやって……! お前は、悲しくないのかよ!!!」 1度や2度では足りなくて、レオンは何度もボーマンの胸元を叩いた。 その手の痛みがどんなに通じなくとも、レオンは何度も、叩いていた。 だが、ふとその手を、ボーマンの手がやわらかく包み込んできた。 「みんなが沈んでるとき、俺まで沈んでたら、みんなますます沈んじまうだろ。」 そう言ってきたボーマンの顔に、いつもの笑みはなかった。 別に悲しい顔をしているわけではない。 つらそうにしているわけでもない。 ただ、笑みを消しただけだ。 それなのに、レオンの胸は、何かとてつもなく重いものがのしかかってきたように苦しかった。 息の詰まるようなその感触にレオンが沈黙していると、ボーマンはまたふっと笑いかけてきた。 「この中で、俺が一番年長者だろ? リーダーはクロードだけど、あれで結構相談してくること多くてさ。 …“年上”ってだけで、みんななんだかんだ相談してくんだよな。 最初はそんな風に“頼れる先輩”でいられるっていう、若干の優越感に浸ってたんだ。」 笑ってはいるものの、声のトーンは決して楽観的なものではない。 それがなおさら、見ていてつらくなる。 「でも…十賢者が出てきてからは…ことさら相談が多くなってきた。 『勝てるのでしょうか』『何かいいテはありますか』『私たちは帰れるのでしょうか』 みんなみんな心配なのさ。 だから、もう……『道化』はやめられなくなってた。」 「…道化……」 レオンは、ボーマンの言葉にようやく納得がいった。 どうしてこんなにもボーマンのへらへらした態度がいらつくのか。 道化師(ピエロ)は、いつでも笑っている。 どんなに悲しくても、どんなに寂しくても。 いつでもへらへら笑う道化師と、どんなに悲しいことが起こってもへらへらしているボーマン。 そうだ、ボーマンは道化師だったんだ。 今になって、ボーマンにぴったりの言葉が見つかった。 見つかりはしたが、レオンが考えているような、“ただ笑っているだけの道化師”とは違う気がして、まだ違和感があった。 「いっつもおどけて笑かしてる俺が、どーんと落ち込んでたら……みんなもっと落ち込むと思うんだ。 ボーマンは笑ってて当たり前、おどけてて当然、みたいに思われてるみたいだからなぁ。」 口調もいつものように軽いもの。 それでも、やはりトーンは決して軽くない。 レオンはやっと気づけたような気がした。 「……愚痴ってるだけじゃダメなんじゃない?」 「んぁ?」 「いっつもおどけて、いっつも誰か笑わせようとして、いっつも笑って……… いっつもいっつも悲しんだり泣いたりできないでいるんでしょ? それなのに、みんなの悲しみや悩みを受け止めてんでしょ? だったら、お前も泣かなきゃダメだよ。」 「…そりゃできねぇよ。 誰かが泣いてる顔見たら、気持ち…沈むもんだろ?」
「だって不公平じゃないか、みんな辛いとき落ち込んだり泣いたりしてるのに、 お前だけ、誰にも何も言えないうえに、泣けないなんて! みんながお前に辛い気持ちを打ち明けて、泣いてくるなら、 お前もちゃんと泣かなきゃダメなんだよ!!」 ボーマンは目を丸くした。そしてすぐにまた、穏やかな笑みを浮かべる。 「……あのな、涙ってのは『出せ』って言われてすぐ出せるもんじゃねぇんだよ。 それに…大人になってくるとな、人前で泣くことが…どんどんできなくなってくるんだよ。」 「だったら……」 レオンは、イスを持ってきて、その上で立ち上がり、ボーマンより目線が高いくらいの位置から、ぎゅっ!とボーマンの頭を抱きしめた。 もちろん突然のできごとに、ボーマンはキョトンとしてしまう。 「クロード兄ちゃんが泣きそうになったとき、こうやってたでしょ。 泣いちゃえよ、って言って……… だから、お前も泣いちゃえ。」 単純。 実に単純なことなのだが、ボーマンの涙腺を緩ませるには十分過ぎた。 どんなに単純でも、その一生懸命さ、その気遣いに、ボーマンは温かさを感じ、それに感謝していた。 「…ん。 ありがとうな。」 目頭こそ熱くはなったが、やはり心がどこかセーブしているらしく、ボーマンの涙は、片目からしか、それもほんの1粒しか流れなかった。 しかしその1粒には、温かい感情がいっぱい詰まっているに違いなかった。 |
フォルダの中で未完成のまま放置されてたものを発見し、完成させました。 絵にするならば。レオ×ボーにも見えなくもない…(笑) ボーマンさんは本当に強い人なんだと思います。 でも、強固に強い!ってんじゃない。人間だから。…ってのを描きたかったんだと思います。(最初に書いてからの時間が空きすぎてあいまいらしい) |