互いの意外

思えば、彼はその男と会話らしい会話をしたことがなかった。

外をぶらつくのにも飽きたし、ただ突っ立っていてもやたらチラ見されるしで、ディアスは大人しく宿に引っ込むことにした。
とはいえ、宿に戻ったとて何をして時間をつぶそうか。
なにぶん、今は自由時間。
他の仲間はそれぞれ、思い思いに羽を伸ばしていることだろう。
だが自分は完全にその「自由」をやりつくしてしまった。
一人だったころは、こんなところで時間を潰すことなく、次の目的地なり、腕を磨くなりしていた。
しかし、一人で街を出ようものなら、レナが心配そうで顔が迫ってくるのだ。
また、一人でどこかへ行ってしまうのでは、と。
だがここはエナジーネーデ。 良く分からない別世界で、何が良くて一人旅なぞできるものか。
エクスペルに帰るために、今こうして戦っているのだから、そんなことはまずあり得ないというのに。
一度、そんなに自分が信じられないのか、と問いかけると、彼女は大きくうなずいてみせた。 これにはあきれるよりほかなかった。
だが彼女は笑っていたので、特に嫌な心持はしない。 ただ、ちょっと迷惑なだけだ。
おかげさまで、この自由時間というものにかなり退屈している。
宿に戻って、やりかけのカスタマイズでもやってみようか。 食糧補給のため、調理に興じるのも悪くないか?
部屋の戸をあけながら、これからどうするかのプランを考えていると、相部屋になった男の尻が目に飛び込んできた。
彼はベッドの下に手を入れ、何かを探している風だった。
「ボーマン。」
と、声をかけると、彼はびっくりしてゴン!とベッドに頭をぶつけた。
痛!!! …ッたたたぁぁ……」
後ろ頭を押さえながら、にょこっと頭をひっぱり出し、ボーマンが顔をしかめながらこちらを向いた。
「…おどかすなよ。どした?」
「いや、何か探し物か?」
素直に問いかけると、ボーマンは「まぁな」とだけ言って、引き続きベッドの下を覗き込んだ。
彼とは相部屋のため、ヘタをすれば一人くつろいでいるところへドタバタと探し回られる可能性もある。
そう考えたディアスは、手伝ってやろうと思った。
「何を探してるんだ。」
「んー、ちょっとなー。」
素直に『手伝おう』とでも言えばいいのだが、さらりと濁されてしまう。
「個人的なものか?」
少し食いついてみせると、ベッドからそっと頭を引き抜き、ボーマンがこちらを向いた。
「なんだよ、ヤケに食い下がるなぁ……手伝うのか?」
「…可能であれば。」
「なんだそりゃ。 指輪、探してんの。」
そう言いながら、今度は備え付けの引き出しを開けてみる。
「どんな?」
「なんにもついてない指輪。金の。」
一瞬、パーティで使う装備品かと頭を巡らせたが、何もついていない金の指輪と聞いて、思わず
「結婚指輪、か?」
問いかけてみると、ボーマンはこちらに背を向けながら
「ピンポーン♪」
と言いながら人差し指を振った。
「町にいる内はつけるようにしてんだけどな?
 どーこしまったかちょっと忘れちまってな。」
「なんでまたそんな失くしやすいものを外したりするんだ。」
なくして困るようなものなら、ずっと身に付けていればいいのに、とディアスが言うと、ボーマンは探す手をやすめて顔を上げる。
「バッカ…大事なもんだから外すんだよ。
 いくらナックルつけててもな、殴りまくってたら、形変わるかもしれねぇだろ。」
結婚指輪とはいえ、指輪一つにボーマンがそこまでこだわりを持つことに、ディアスは感心した。
「意外だな。」
「なにがよ。」
「お前が、1つのモノに固執するような男だとは思わなかった。」
物事に柔軟な考えを持っている風があるため、あまり1つのモノにこだわってモノを見るような男には見えなかったのだ。
「…固執っていうかよ……」
ディアスの喩えが不満だったか、ボーマンが訂正の言葉をつむぐ。

    「今となっては、形見みたいなもんじゃねぇか。」

聞いた瞬間、胸にヅシッ…とくるものがあった。
「エクスペルを復活させられる、っつっても、それはまだ先の話だし、
 ひょっとしたら復活させられねぇかもしれねぇ。
 …だから、復活させてやれるまでは、
 あの指輪だけが形見なんだよ。」
彼が仲間に加わった経緯はわからない。
だが、まさかこんな別の世界へ来るハメになるとは、
ましてやエクスペルが消滅するなどと、
予想などしていないだろう。
現に彼は、結婚指輪以外に、
伴侶の持ち物など持ってきてはいなかった。
ゆえに、彼が指輪を形見だとするのは
十分納得がいく話だ。
「……意外だな。」
「これもかよ。」
「ああ。 実に意外だ。」
彼のイメージは、どちらかというと軟派な方で、
どの町へ行っても女の観察などをしている
ような(実際しているのだが)男だった。
しかし、こうもイメージと違う姿を
見せつけられては、調子が狂う。
調子は狂うが、悪い気はしなかった。
悪い気はしないから、
「…金の指輪…だったか。」
わざとらしい独り言を言って、自分も指輪らしきものを探し始めた。
「おう。金。」
それを返事にして、ボーマンも探し…出す前に、ポケットからタバコを取り出した。

ボーマン、それ…

何気なく顔をあげたディアスの視界に、不自然に膨らんだタバコの箱が飛び込んできた。
ちょうど屈んでいたため、突っ立っていたボーマンからは死角になっていた手元が見えたのだ。
言われて初めて、ボーマンはその膨らみに気づき、片手を出して箱を逆さに振った。
バラバラとタバコが落ちる中、1つの指輪も一緒に落下してきた。
「…そういやぁ、いつも持ち歩いてるタバコん中なら安心だ、って
 こんなとこ突っ込んだような……」
慌てて探していただけに、ボーマン自身ばつが悪そうに顔を引きつらせる。
その様がおかしくて、ディアスは思わずふき出した。
「その調子では、タバコを切らしたとき、うっかり箱ごと捨ててしまいそうだな。」
「るせー。 ……でも、ありがとな。
 お前、案外いいやつじゃねぇか。」

    案外。

そう言われてディアスは、ああ、ボーマンもまた自分の意外な部分を見たのか、と感じた。
自分が抱いていたボーマンのイメージと、実際とのギャップを考えると、ボーマンは自分のことをどう見ていたのか……
「今まであまり好感を得ていなかったようだな。俺は。」
「まーなッ。 でもまぁ、これでお前さんの見方も変わったよ。」
先ほどとは打って変わり、ボーマンは明るい声で言って、肩をすくめてみせた。
「これから、戦いも厳しくなってくるだろう。
 ちょうどいい機会だ。 改めてよろしく頼まぁ。」
そう言って、ボーマンは手を差し出してきた。
その手は、握手を求める手。
何が改めてなのかよくはわからなかったが、彼とこんな風に向き合って会話したっこともなかっただけに、これはこれで良いような気がしてきた。
だから、ばかばかしいとは思いつつも、

    「ああ。 よろしく―――」

その手をとった。


某方とチャットした際、ボーディを描く〜的な話になったのですが、
くっちゃくちゃーの、ぐっだぐだw
なんかあんまりまとまってません;
途中から文にするのがつらくなってきたので、漫画に切り替えました。作画力低下してるのに。(無謀)

ボーマンさんて、通常元気だと思います。元気にふるまってるというか。
でも、エクスペル消滅を知った直後は、こっそり弱ってそうな気がします。
だから、結婚指輪がどっかいっちゃっただけで、ちょっとへこみそうになる気がします。
(普段頼もしい人が、フラッと弱くなるとこって好きですv)

ディアスから見たら「こいつどーしようもねぇな」って感じの人だったんですが、 その弱ってる部分を垣間見ちゃうと、ほっとけなくなって探してやりたくなる…みたいな。
ディアスも優しいやつなんですよ、ホントは。 ホントは。
そういうのを…書きたかったんですが……
プロットがぼんやりしすぎたか、歯切れ悪し…!;