ディアス救出記

パーティはレオンを先頭に、アシュトン、プリシスの3人で組んでいた。
今回の目的は、単なる遺跡探索ではない。 とある仲間のSOSが宇宙船に飛び込んできたため、救出に向かうことになったのだ。
その仲間とは、退屈しのぎにふらっと出掛けたディアス=フラック。
もともと、普段はディアスを筆頭に、彼の戦力をアテにしつつレオンがダンジョンヒント、プリシスはクリエイターとして参加していた。
この3人が主力メンバーとして考えていただいても結構だったのだが、3人だけ偏って成長させるのもどうかというプリシスの提案により、急遽ディアスとアシュトンを入れ替えることになったのだ……が。
ヒマを持て余したのか、それとも単なる息抜きのつもりだったのか、ディアスは独りふらりと出掛けてしまった。
万が一を想定して、一応彼にはプリシスが簡単に作れる無線の通信機を手渡しておいた。
すると新メンバーでレヴィアボア遺跡を攻略し、エルネストと合流し、そんでもって帰還したばかりの彼らに、早速ディアスからのSOSが入った、というワケだ。
一応彼自身も万が一を考えていたらしく、遺跡の名称や詳しい位置まで丁寧に教えてくれた。
遺跡の名前はアバの南にあるクレイン遺跡。
見捨てるワケにもいかないため、3人はディアス救出のため、クレイン遺跡へ赴いたのであった………。

クレイン遺跡に潜ってみると、粗方ディアスが倒してしまったのだろうか、モンスターの死体があちらこちらに転がっていた。
「……すごい数だね……。 さすがはディアス……。」
アシュトンが気圧され気味につぶやくと、レオンがそんな彼の脇腹を肘でつつく。
「感心するのは勝手だけどね、僕らは戦力的に余りアテにならないんだから、しっかりしてよ?
 お兄ちゃんが倒れたら、もう僕たち逃げるしかないんだから。」
「う、うん。 わかってるよ。」
「モンスターも粗方ディアス兄ちゃんが倒しちゃってるみたいだから、
 ここは僕が先頭に立って調べてみるよ。
 もしモンスターが現れたら、その時はアシュトン兄ちゃんよろしくね。」
「大丈夫だよ。 前の遺跡でだいぶ腕を上げたからね!
 戦いのことは僕に任せて、レオンはしっかりダンジョンを調べてよね!」
「うん。」
レオンとアシュトンが喋っている最中、何度か呼んでいたのだが、ここでようやく二人はプリシスが呼んでいたことに気付く。
「ねぇってばぁ!」
「え?」
「なんだよプリシス!」
「あのさ、あたし達ってば、ディアスを助けに行くんだよね?」
ココまで来て今更任務確認だろうか? もちろんレオンが「あのねぇ」と呆れた様子で声をあげる。
「じゃ僕たちは何のためにここまで来たっていうのさ。」
「うん、でもさ。
 ディアスがいるとこに行くんならさ、
 ディアスも謎解きしたりして進んだワケだろうからさ、あたし達が謎解きしなくてもいいんじゃないの?」
「どういうこと?」
「だからぁ、謎解きする場所があったとしても、
 もうディアスが解いちゃってるんじゃないの?ってこと!」
「あ。」
言われてレオンは途端に赤くなり、アシュトンの後ろに退がった。
「レオン?」
「謎解く場所がないんなら、僕は普通に後ろにいていいんだよ。
 だって僕、術師だもん………。」

遺跡は穴に飛び込んだり、ハシゴを登ったりと、プリシスのマッピングがなかったら完全に迷子になるような複雑な遺跡だった。
アシュトンが先頭を歩き、最後尾にいるプリシスが指示を出す、といった状態で、パーティは進んでいた。
途中、アシュトンがぴたっと足を止めた。
その後に続いていたレオン、プリシスがどん・どんっとぶつかって止まる。
「なんだよぉ、びっくりするじゃないか!」
「どったの、アシュトン?」
アシュトンはしゃがみ込み、何かを拾い上げてプリシスとレオンの前に差し出した。
「ねぇ、コレ……プリシスが持たせた通信機じゃない?」
アシュトンの手のなかには、プリシスがデザインした、バーニィがウィンクしている小さな通信機があった。
とはいえ、その耳は片方が折れており、顔にはいくつか亀裂がはしっていた。
「…そうだよ、コレ、あたしがディアスに渡したヤツだよ!」
「待ってよ、これがここにあるってことは、お兄ちゃんが近くにいるってこと?」
「それを分析するのが君の分担だろ……?
 とはいえ、こんなに破損してるってことは、ディアスに何かあったってことだよ!」
アシュトンはくっと歯噛みして、プリシスはう〜んと心配そうな顔をする。
レオンは通信機のボタンを軽く何度か押してみて、反応があるかどうかを調べる。
「……完全に壊れてる…。
 てことは、お兄ちゃんがSOSを入れた後にこれは壊されたってことになる。
 僕たちがこの遺跡に入ってからココに来るまでの時間に、
 お兄ちゃんはどこかに移動したってことになるね。」
レオンは冷静に分析しながら、辺りを見回してみる。
「問題は、どこに移動したかだけど……。」
フィールドアクション『ダンジョンヒント』を使って、部屋を調べてみると、レオンはふと壁に飛び散っている血のあとを見つけた。
それに手を触れ、乾き具合を調べる。
「…まだそんなに経ってないな……。
 ねぇ、お兄ちゃん、プリシス!
 通路の向こうにある部屋に、血のあとがないか調べてくれる?」
「どうして?」
「まだ新しい血のあとがあるなら、ディアス兄ちゃんはその方向に向かったって事だよ。」
レオンの指示により、アシュトンとプリシスはレオンと反対側の部屋を調べることになった。
アシュトンは東の通路を通って次の部屋に向かう。
部屋の中を見渡してはみるものの、彼の目では特に目立つものを見つけることはできなかった。
しかし、彼には背中に心強い相棒がいる。
『アシュトン、彼はこちらに来ているようだぞ。』
背中からギョロがそんなことを言ってきた。
背中にいる彼の方を向くと、彼の目は天井を見つめていた。
彼の視線を辿って天井を見てみると、天井のあちこちに血が張り付いており、まだ乾ききっていないのか、今にも垂れ落ちてきそうな様子だった。
「……天井に血……って、一体どんな戦い方したんだよディアスは…。」
『あいつは飛翔して戦っていたからな。 天井にめり込ませるようにして斬り込んだのだろう。』
「…僕にはまねできないなぁ……。」
『感心してる場合か、皆に知らせるのだ。』

更に奥へ進む内に、一行はだんだん不安になってきた。
というのも、壁だけでなく、今度は床に血のあとが多く見られるようになってきたのだ。
それも、戦いによる血しぶきなどではなく、ボタボタと血をタラしながら移動するような、点々と続く血のあとが。
「…ねぇ、なんかヤバそうな感じしない?」
プリシスの声に、アシュトンはチラリとレオンの方を伺う。
意見を求められたレオンは、ちょっとだけ考えたが、冷静な答えを述べる。
「ヤバそうな感じじゃなくて、完璧ヤバいよ、コレは!
 あのディアス兄ちゃんが、こんな血を垂らしてまでウロウロしなきゃならないんだから、
 もうよっぽど追いつめられてるよ!」
「も、もしかして…間に合わないのかなぁ、あたし達。」
「縁起でもないこと言わないでよ。」
「ここで議論してても仕方ないだろ、今はお兄ちゃんの無事を信じて、急ぐしかない。」
レオンがそう言った時、ふとアシュトンが何かの気配に気付き、走り出した。
「え!? ちょっと、どうしたんだよ!」
「待ってよアシュトーン!」
一度取り出そうとした地図をしまいながらレオンも後を追い、その後に続いてプリシスが走る。
アシュトンは、走りながらも剣を鞘から抜き出していた。
(間に合って……!)
見ると、前方にある通路からチラッと赤い光が見えた。
そこに間違いないと察知したアシュトンは、その通路の向こうにある部屋に飛び込む。
「ディアスッ!! 無事!!?」
アシュトンが叫ぶと、部屋の中央では刀を地面に突き刺し、それを支えになんとか立ち上がろうとしているディアスがうずくまっていた。
想像していた通り、彼は血だらけになっており、その右腕からは未だボタボタと血が滴っていた。
そして、彼の前には今にもその鋭いツメでディアスを切り裂こうとしているドラゴンがいた。
「加勢するよ!」
アシュトンが叫ぶのと同時に、ウルルンがコールドブレスでドラゴンの右腕を凍りづけにする。
ドラゴンがそれに気を取られているスキに、ディアスを抱えて、アシュトンは通路の方へと下がる。
「大丈夫?」
「……あまり大丈夫とは言えないが…。
 とりあえずは放っておいても大丈夫だ…。」
その言葉は、心配しないで戦ってくれ、ともとれる言葉であった。
そうこうしてる内に、ようやくレオンとプリシスが追いついてきた。
「うわ、お兄ちゃん!」
「レオン、ディアスはあたしにまっかしといて!
 アシュトンの援護お願いね!」
言って彼女は早速アイテムを取り出し、レオンはアシュトンの後衛にまわった。
しかしアシュトンは、「ひとりでも十分だよ。」と言って、ドラゴンの喉元を掻き斬った。
それが致命傷となったか、ドラゴンは身体を大きく傾かせた。
その瞬間、アシュトンはリーフスラッシュを放ち、とどめを刺す。
白目をむかせ、ドラゴンはそのまま倒れ、それっきり動かなくなった。

「すまない……もう、大丈夫だ。」
まだヨロつく足取りながらも、ディアスは立ち上がろうとする。
そんな肩を軽く押さえ、アシュトンがにっこりほほえみかける。
「ムリしないで。 もう少し休んでていいから。」
「しかし……。」
「いーじゃん。 どうせまだロクに動けないんだしさっ。」
プリシスの言葉に、ディアスはふぅとため息をついてうなだれた。
「…情けない話だが…… 通信機で助けを求めた時点で、既に追いつめられていたんだ。
 テレポーターもない状態で、こんな奥地まで来て迷って……。
 助けを待っている内に、あんなところまで追いやられて…………。」
「気にするほどのことじゃないと思うよ。
 いつもは3人だったからラクに進めたんだよ、きっと。」
レオンの言葉に、ディアスはさらに落ち込み、プリシスとアシュトンが大慌てでレオンの口を塞ぎにかかる。
「…やはり、アシュトンの言う通り……腕がなまっているようだな。」
「そんな、あんまり気にしないでよディアス。」
「……気にしないワケにはいかないんだよ、アシュトン。」
ディアスはフフンと笑ってアシュトンを見上げた。
「壁にぶつかった時、その壁をどうやって乗り越えるか、
 その都度その都度考えないでいたら、人間はいつまでも進歩しない。
 だから、気にしないワケにはいかないんだ。」
アシュトンは、やっぱりこの人にはかなわないかな、と思った。
彼は常に上を見ている。 上に向かおうとしている。
その向上心は、言い換えれば貪欲に力を求めているとも言えるのだが、見習いたい精神であった。
「……ねぇ、ディアス。 やっぱり君はスゴイ人だよ。」
「なに?」
「今回はたまたまピンチになっちゃったけどさ、
 そうやって常に上を目指そうとしてる人は、情けなくなんかないと思うな。
 少なくとも、僕はそう思うんだけどな。」
アシュトンが言うと、ディアスはフンと嘲笑を浮かべてアシュトンから顔を背けた。

余談ではあるのだが、この後アシュトンとディアスは、ヒマさえあれば宇宙船のそばで手合わせするようになった。
互いが互いを刺激し合い、互いに互いを高め合うようになった。
同時に、二人の顔に少しばかり笑みが浮かぶようになったようだ。


突発的妄想。しかも飲酒状態から始まって、だんだん冷めてきたもんですから、オチがメタメタ………(汗) ごめんなさい。
一応書き直しはしてたのですが、飲酒状態にどんな構想まとめてたのか全くわからないもんですから、正直前後の展開ちぐはぐかも。(汗)
エル・ボー・ディの3人でもやってみたいなぁコレ。