独りじゃないよ

「ロディ!大丈夫ですか!?」
アーデルハイド近辺へ転送されたセシリア達は、
自ら斬り裂いた左腕の痛みに苦しむロディを気遣った。
ロディは、かろうじてだが呼吸をしていた。
「良かった、まだ助かる……!!」
セシリアが魔法を唱え様とした時、ザックは息を呑んだ。
「お、おい……姫さん……こいつは…」
「?どうしたのですか、ザック?
 大丈夫ですよ。例え肉体の一部を失っていても、回復の魔法なら……」
言っていて、セシリアも言葉を途切らせる。
ロディの、切り裂かれた左腕からは、魔族と同じ金属が見え隠れしていたのだ。
セシリアはその場にペタンと座り込んでしまう。
「え…?どういう事…?ロディが……ロディが魔族と同じ…金属の肉体を…!?」
「よせ、姫さん!
 こいつ自身知らなかったみたいだ、見ろ、震えてる……!!」
ザックは、ロディの両肩を支えながら、セシリアに言った。
「ど、どうすれば良いのでしょう……!?」
「エマだ!
 あの博士なら、何か良い知恵出してくれるかもしれねぇ!!」
ザックはまくし立てる様にそう言い、ロディを背負った。
そして、いつまでもへたり込んでいるセシリアに、乱暴だが強い口調で叫んだ。
「急ぐぞ姫さん!!」
「は、はいッ!!」
セシリアは慌てて立ち上がり、ザックの後を走って追った。

「これは……私じゃぁどうしようもないわね…」
エマは、お手上げとばかりにそう言った。
「なんとかならないのかよ!?
 あんた、アームマイスターなんだろ!?」
ザックが言うと、エマも声を荒立てる。
「私だって何とかしたいわよ!!
 でも、アームとも構造が違って、どうしようもないのよ!!!
 筋肉組織、内臓、骨格全て、一つ一つが、私達人間と全く同じ。
 ただ異なるのは、それら全てが金属製であるという事……
 この子の体は、ロストテクノロジー級の高度な技術で作られているみたいね…」
「まさか……ロディが魔族だったなんて…」
ジェーンが言うと、ハンペンがそれを否定した。
「まだわからないよ?
 体の作りは確かに魔族と同じかもしれないけど、ロディは薬草や魔法でケガを回復させてたし、
 何よりも、『痛み』を感じる事ができていた。
 それらから見ても、少なくともロディは魔族じゃない。」
「ウダウダ言ってねーで、お前も少しは何とかする方法を考えろ!」
ザックが言うと、ハンペンは「マリエル」とつぶやいた。
「エルゥの生き残りのマリエルなら、何か知ってるかもしれないよ!
 ザック!! ロゼッタに行こう!!」
ハンペンの言葉に、ザックは一瞬迷った。
「だがよ、ハンペン。
 今のロディを、ロゼッタまで連れて行けると思ってるのか?」
「それでも、やるしかないよ!!
 それとも、ザックはこのまま諦めちゃうの!?」
ハンペンは、ザックの肩から飛び降りて、ロディの顔の間横に着地した。
ロディは、腕のせいなのか、かなり辛そうな表情を浮かべていた。
「ロディだって、いつまでもこんな苦しい思いはしたくないと思うよ。
 ねぇ行こうよ、ザック!!」
ザックは、チラリと横目でロディの方を見た。
今のロディを、動かして良いものなのか、ザックはまだ決めかねていた。
「私からもお願いします。ザック。」
セシリアが、真剣な眼差しで言って来た。
「可能性が少しでもあるのなら、その可能性に賭けましょう。
 何もしないよりかは、いくらかマシでしょうから。」
セシリアにまで言われて、ザックはガリガリガリと頭を掻いた。
「そこまで言われたんじゃ、仕方ないか……俺の負けだな。」
「では、明日、早朝にここを発ちましょう。
 いくらなんでも、ジークフリードとの戦いから続けてロゼッタへ行くなんて、体力が持ちませんからね。
 今日は休む事にしましょう。」
セシリアの言葉に、ザックはゆっくりと首を縦に振った。

その夜、ザックは宿を抜け出して、エマの家で眠るロディの様子を見に行った。
当然、こんな夜中まで家の扉を開けているエマではなく、家の戸はカギが閉まっていた。
ザックはワイヤーフックを2階の窓に引っ掛け、そこから侵入する事にした。(ほとんどドロボウやんけ)
ヒュンヒュンヒュン……ガッ!!
フックは上手く引っ掛かり、ザックは外れないかどうか確認する。
(よし…)
外れない事を確認したザックは、ワイヤーフックのワイヤーを高速で巻取る。
シャァァァァァァァ!
ザックの体は軽やかに2階へと引き寄せられ、そのまま足を窓の桟に掛けて、2階の部屋へ侵入する。
(侵入成功☆)
なんて喜んでいて、ザックはオヤ?と思った。
ベッドの中が空なのだ。
(ロディ?)
ザックは、小声で彼の名を呼ぶ。
しかし、ベッドから彼の声は聞こえない。
(便所か?)
そう思いながら、何気なく天井へ目をやると、壁にハシゴが立て掛けてあり、
誰かが天井裏へ侵入した形跡が見られた。
(上にいるのか?)
ザックは、そのハシゴを登ってみる事にした。
ハシゴを登りきると、そこは天井裏なんかではなく、屋根の上だった。
そしてその近くには、ロディが呆然と星空を眺めていた。
「……よぉ。」
ザックが声をかけても、ロディは振り返る事なく、ただうつむいた。
ザックもハシゴを登りきって屋根に上がり、ロディの隣へ腰掛ける。
「何してたんだ?」
ザックが問いかけても、ロディは返事をしなかった。
それでも、ザックは一人喋り出す。
「一人で天体観賞かい?
 俺達も誘ってくれりゃぁ良いのによ。」
「ザックは…」
ようやく、ロディが口を開いた。
「ザックは、復讐のために魔族と戦っているんだよね。」
「そうだな……あいつらだけは絶対に許せないから……
 でも、何だって今更そんな事聞く気になったんだよ?」
ザックが言うと、ロディは失われた左腕の切り口に手を添えた。
「俺も……アンタの敵になるのかな……って思って。」
ザックはキョトンとした。
「どうしたんだよ、いきなり。」
「俺の体は魔族と同じ、金属で出来てるんだろ?
 だったら俺も…魔族なんじゃないか……って。」
グシャ。
ただでさえボサボサしているロディの髪の毛を、ザックはグシャグシャと乱す。
「わッ……何すんだよ!」
「お前は誰だよ?」
ザックに質問されて、ロディもキョトンとした。
「い、いきなり何?」
「良いから答えろって。……お前は、誰なんだ?」
ロディは、ワケもわからぬまま、
「……ロディ=ラグナイト。」
言われるままに名乗る。
するとザックは、キヒヒヒと奇妙な笑い方をした。
「だろ?
 少なくとも、俺の知るロディ=ラグナイトは、
 誰にでも優しくて、弱い者をいじめる奴を許さない熱い奴で、
時にはARMを不発させたりもするが強い奴で……
 そして………………俺やセシリアの仲間だ。」
最後だけは優しく言って、ザックはニカッと明るい笑顔を見せた。
「要するに、だ。
 例えお前が魔族だったとしても、ロディはロディ。別に変わりゃしねぇだろ?
 最初っから魔族だったとしても、俺はお前の事を仲間として認識していたわけだし。
 そんな奴を、今更『敵』として認識しろっていう方がムリってもんだぜ?」
ザックの返事に、ロディは少しだけ目を丸くした。
ザックは、ロディの肩に手を置いた。
「他の奴らだってそうだぜ?ロディ。
 最初は驚いたが、皆、お前がお前である事には変わりないって思ってるんだぜ?
 だからさ………」
ザックは、ビロ〜ンとロディの両頬を軽くつまんでひっぱった。
「ミギッ!?」
「いつまでもクヨクヨしてるんじゃねぇ〜〜〜〜。
 わかったか、ウリャ。」
そんなに強く引っ張っているワケではないので、そんなには痛くなかったが、
ロディはその手を外そうとジタバタする。
「離せぇ〜。」
口では嫌がっているものの、目は笑っていた。
ロディがジタバタしていると、その内ザックはパッと手を離した。
「さぁて?俺はそろそろ寝るとするぜ?
 明日は早朝出発っつってたからな。
 ああ、お前は寝てて良いから。俺が担いでいくからさぁ?こう、大工道具のごとく!」
ザックは冗談半分に、大工が大工道具を担ぐフリをしてみせた。
それを見て、ロディはクスリと笑い、ハシゴに足を掛けた。
「それはご苦労様。
 あ〜。なんか落ち込んでるのがバカらしくなっちゃったな。」
「おぅ、大丈夫なのか?手貸そうか?」
ハシゴを降りようとするロディに、ザックが手を差し伸べる。
しかしロディは、笑いながらそれを断った。
「大丈夫だから。ザックはもう宿に戻った方が良いんじゃない?」
ロディに言われて、ザックは「それもそうかもな。」とだけ言い、笑って手を引っ込めた。
「じゃ、おやすみ。ザック。」
「おう、また明日な。」
ロディは手を振りながらハシゴを降り、天上裏を閉めた。
それを見送りながら手を振っていたザックは、ハッとある大変な事に気がつく。
どうやって降りよう!!?
ロディが閉めた天井裏を、ザックはドンドンと叩いてみるが、
あれからすぐに眠ってしまったのか、ロディの返事はない。
結局翌朝、煙突掃除に来たエマの助手が、
屋根の上で途方に暮れているザックを発見するまで、ザックは屋根の上で過ごしたと言う。

今回は、ザックを主役にしてみました。
でも、終りがまとまってませんねぇ?(ヤレヤレ)
でも、キリマ的にザックって、自分が辛くても、
ロディやセシリアの事を気遣ってくれたりする、
良いお兄さんキャラに思えるんですけど、
皆さんにはどう見えるんでしょうかねぇ?