「ネガティブレインボウ!!!」
変貌して、さらにチャパパンガのチカラを吸収したジェイナスのチカラは容易なものではなかった。
いつになく苦戦を強いられ、長期戦は免れなかった。
広範囲に放たれるネガティブレインボウは、一撃だけでヴァージニア達の体力を半分近くまで殺ぎ落とし、
そこからさらに彼の直接攻撃のラッシュを受けて、ジェット、ギャロウズと、次々にバタバタと倒れていった。
残るはガングニールを支えにようやく立っているクライヴと、
荒い息をつきながら口の端から流れる血を白い手袋で拭うヴァージニアだけ。
そんな満身創痍の2人を見て、ジェイナスはククッと嘲る様な笑いをもらした。
「…汚ぇなぁ………。
特にお嬢ちゃん。 女の子なのに、なんてぇズタボロさだ? えぇ?
真っ白な手袋に赤黒いシミなんざつけちまって。 せっかくのかわいいお顔が台無しだぜ?」
「あなたにかわいいなんて言われる筋合いはないわッ!!」
言いながらもヴァージニアは二挺拳銃を構える。
「それに、例えからだはボロボロにされようとも、ココロだけは屈してないから!!
あんたなんかには、絶対に負けないんだから!!!」
体力がないせいで、手がカクカクと震える。
それでも、彼女の目は真っ直ぐジェイナスを睨みつけていた。
憎しみにも近いが、真っ直ぐ澄んだ、怒りの目である。
「…………気に入らねぇな。その目。」
ジェイナスが癇に障ったかの様にそう言った。
その刹那、クライヴは思わず叫んでいた。
「危ない!! ヴァージニア!!!!」
ヴァージニアの身体は後ろに突き飛ばされ、彼女の目の前に黒と緑と紅の影が立ちはだかった。
そして……
ビチャビチャと、赤くまとまったしずくが大量にヴァージニアの襟や頬にかかる。
凝視してみれば、目の前で……クライヴがグラムザンバーの刃に肩口を深く斬り裂かれていた。
「ク……クライヴ……ッ!!」
言葉を失ったヴァージニアの声に、ジェットも、ギャロウズも、痛む身体を引き摺って顔を上げ、顔面蒼白した。
2人とも昏倒状態ではあるのだが、クライヴほどひどくはないのだ。
ただ単に起きて戦う事ができないだけ。
「はん。 随分と格好つけてくれるじゃねぇか。」
返り血で真っ赤に染まったジェイナスは笑みを浮かべて、クライヴを見た。
クライヴは、自身の血に染まりながらも、ギリッと歯軋りをして、ジェイナスをギロリと睨み上げた。
その目は、普段の物腰からはとても考え付かないほどに殺気に満ちていた。
「へ〜、ヘラついたお前でもそんな目ができるとはね。
…………だが、そんな目ぇされるとな、こっちもムカッ腹立ってくるんだよ!!!」
言いながらジェイナスは、肩の骨でつっかかったグラムザンバーにチカラを込め、そこから一気に腕を振り切ろうとした。
「………や、やめて、やめなさいジェイナスッ!!」
ヴァージニアが駆け寄ろうとした時、ジェイナスはとっさにプロトンビームを発してヴァージニアの体を吹っ飛ばし、
その華奢な体を思いきり壁に叩きつけた。
「ヴァージニアッ!!」
ジェットが叫ぶと、顔をしかめたままヴァージニアは壁からずるりと滑り落ち、その場に力なく倒れる。
「ギャーギャーとうるせぇんだよ!! これだから女は。」
ジェイナスは吐き棄てる様にそう言い、さらにグラムザンバーにチカラを込め、
クライヴの肩口から一気に腹の内臓まで斬り裂こうとした。
もちろんそう簡単には切れないのが槍という武器で。(槍は本来突くものだからね。)
なかなか斬れないおかげで、ジェイナスは今更グラムザンバーを引っこ抜くワケにもいかない。
「チッ……バイアネットだったら結構すんなり斬れたろうによ!!」
言いながら、また深くクライヴの体を斬る。
クライヴのクチからゴボリと血がこぼれ、彼のヒザはガクガクと震え出す。
「クライヴ……! ちっきしょぉ………!!」
ギャロウズは、せめて立ち上がってジェイナスを突き飛ばすか、
ヒールでもかけてクレイヴを助けるかしたかったが、
あいにく昏倒状態なので動くに動けず、ただ見ているしかなかった。
「ックソォッ………!! おいヴァージニアッ!!! ヴァージニアッッ!!!」
ジェットは、壁に叩きつけられた際に気を失ったヴァージニアに呼びかける。
「起きろヴァージニアッ!!! 目を覚ませ、このままあのオッサンが死んでも良いのかよッ!!」
いくらジェットが呼びかけても、彼女は目を覚まさない。
「もう悲しい思い出は作らないって、そう言ったじゃねぇか!! アレはウソだったってのか!!?
それとも、お前の決心はそんなに緩く弱いもんだったのかよ!!?」
ジェットが、ヴァージニアではなく、ヴァージニアのココロに呼びかける様な切実な声をあげた時。
クライヴの右手がジェイナスの胸倉を掴んだ。
「?」
ジェイナスは一瞬目を丸くする。
どうやらクライヴは、まだ辛うじて動く事はできた様だ。
歯を食い縛り、残された力を振り絞って、ジェイナスを睨む。
「………今動けるのは僕だけ………! ……あなたを倒すほどのチカラは残ってませんが……!」
呻く様な声で言いながら彼は何かを発動させた。
(アルカナ? それよりは強力だ。)
「フォースを残しておいて助かりましたよ。 風のガーディアンのチカラ…思い知りなさい!!」
叫ぶと、彼の足元を風が渦巻き出す。
遺跡の中を疾風が吹き荒れ、風のガーディアン、フェンガロンがその疾風の道を駆けて来る!
「!!! ってッ、てめぇ!!」
ジェイナスは逃げ出そうとしたが、クライヴがその手を離さない。
「逃がしませんよ…!!!」
力強い殺気を目に滾らせ、クライヴが叫ぶ。
その声に応えるかのごとく、フェンガロンの爪は下から掬い上げられる様にしてジェイナスを叩き飛ばした。
すると遺跡内でハリケーンが巻き起こり、遺跡の天井が吹っ飛び、ジェイナスは空高く吹っ飛ばされる。
……が、落下して来なかった所から見ると、吹っ飛ぶ際にテレポートしたのか、それともどっかはるか彼方へと吹っ飛ばされたのか……
いずれにしても、最悪の事態は去った様である。
「……………はぁッ……………」
一息ついて、クライヴはひざを折った。
「あ、クライヴ!」
ギャロウズが叫んだ時、ヴァージニアが目を覚ました。
そしてハッと目の前を見た時には、丁度クライヴがドサッと倒れてたところであった。
「えッ……クライヴ………嘘………!!?」
「嬢ちゃん!! 動けるなら急いでリヴァイヴフルーツよこしてくれ!! クライヴを治療しねぇと!!!」
「あ、うん!」
ヴァージニアはポシェットからリヴァイヴフルーツとミニキャロットを取り出し、
まずミニキャロットでフォースを回復し、ミスティックでリヴァイヴフルーツの隠された効果を発揮させる。
効果が現われ次第、ギャロウズはガバリと立ち上がり、自身も深い傷を負っていながらもミニキャロットでフォースを回復させ、
まずエクステンションで全員にヒールをかける。
その次にクライヴを抱き上げ、仰向けに起こしてその傷を目の当たりにする。
傷は大きくクチを開け、彼の薄茶色い襟、黄色い皮製のベストやベルトに赤黒いシミを広げていた。
「ヤ、ヤバ過ぎだぞ!! 早く医者に見せねぇと命に関わる!!」
「お前のヒールでなんとかすりゃいいだろが。」
ジェットが痛む腕を押さえながら言うと、ギャロウズが「バカ言え!」と叫んだ。
「これ以上は危険なんだよ!
ヒールベリーも食えそうにないし……医者に見せるか自然回復を待つしかないんだ!!」
「どうして?」
ヴァージニアとジェットが首をかしげると、ギャロウズはクライヴを抱き上げながら立ち上がった。
「ヒールは魔法みたいにケガを治すんじゃなくて、人体にある治癒能力を促進させるだけなんだよ。
今のクライヴには体力なんてほとんど残ってない。
そんな状態でヒールなんか使ったら、体が治る前に力尽きる。」
ギャロウズの言葉にジェットは言葉を失い、ヴァージニアは息を呑んだ。
「だから…今は急いでこいつを医者に見せるか、
どっか町で休ませるしかねぇんだよッ!!! わかったら急げ!!」
「う、うん!」
ヴァージニアとジェットもクライヴを運ぶのを手伝おうとしたのだが………
生憎ギャロウズの身長(2m近く)には届かず、結局ギャロウズ独りの力で、
クライヴの自宅……ハンフリースピークへと運ばれたのであった………
ウィンスレット宅へ着いてまずやらなければならなかったのは奥さんキャスリンと娘ケイトリンへの説明。
これはヴァージニアが引き受けた。
そしてハンフリースピーク唯一の女医シヴィルを呼びに行くのはジェット。
シヴィルが到着するまでの間の看病はギャロウズが引き受けた。
シヴィルが到着した後にも、ギャロウズは色々と彼女の手伝いをした。
クライヴの上着やベストを脱がせたり、かすかに意識の残る彼が痛みで動くのを押さえつけていたり。
一番苦労したのはギャロウズであった。
しかしヴァージニアだって、ただ待っているワケではない。
「お父さん……死んだりしないよね………」
今にも泣きそうな、震えるケイトリンに優しく声をかけていたのだ。
「ケイトリン。 ケイトリンがそんなこと言っちゃダメよ。」
「だって、お父さん…あんなに血で………」
「お父さんのこと、信じてあげて。
あなたのお父さんなんでしょう? ケイトリンを独りになんかさせないわよ。」
ヴァージニアはニッコリと、誰もが見たら安心する様な笑顔をして見せた。
(クライヴは、ケイトリンちゃんを独りになんかさせないわ。 ……私のお父さんと違って………)
「おい。ヴァージニア。」
ジェットが声をかけて来た。
「なぁにジェット。」
「お前疲れてるだろ。 さっさと寝た方が良くないか?」
時計を見れば、もう夜中の3時。起きているには深すぎる夜の時間であった。
「ありがとう。 でも、私はまだ起きてるわ。」
そう言って、ケイトリンをひざの上に抱き上げた。
「ケイトリンがまだ心配してるみたいだし。
それに、ギャロウズだって頑張ってるから。 ジェット独りで休んでたら?」
ヴァージニアが弱々しい笑みを見せると、ジェットはチッと舌打ちした。
「なんだよ……お前までそんなんじゃ俺も何かしなきゃって思っちまうじゃねぇか。」
「それが普通なのよ。ジェット。」
ヴァージニアがふと寂しげにそう言った。
「仲間が大変になっちゃった時、何かできる事はないかなって思う事が普通なのよ……
………自分にできる事がないから、不安になっちゃうんだ。」
ヴァージニアはフッと悲しげな目をしてケイトリンを抱き締めた。
「私には、ギャロウズやシヴィルさんみたいに誰かのケガをアルカナ以外で治す事なんてできない。
ましてや何をすれば良いのかわからないから、ケガの手当ての手伝いだってできない。
……だから…不安なの。」
「………。」
「だから、私は私に出きる事を見つけたの。
私にできるのは……せめてケイトリンが不安にならない様にしてあげる事だけ……
クライヴも言ってたでしょ? クチだけなら達者なのよ。」
言っている内に、ヴァージニアはハッとケイトリンの顔を見た。
彼女は、いつの間にか眠りについていたのだった。
「静かだと思ったら、もう寝ちゃった…」
「ヴァージニアさんも眠ったらどうですか?」
そう言ったのは、心配そうな顔をしたキャスリンだった。
「ケイトリンなら私が寝室へ運びますから。」
「いえ、このままで良いです。」
「…でも、そのままじゃあなたが倒れてしまいますよ?」
「いいえ。不安で堪らなくなった時って……一番誰かにそばにいて欲しいものなんです。
だから、このままで、良いんです。」
「…すみません。」
キャスリンが申し訳なくそう言うと。
「謝らなきゃいけないのは私の方です。」
ヴァージニアが言った。
「クライヴは私を守ったからあんな大怪我をしてしまったんです。
………だから」
「あのヒトはいつもそうなんです。」
キャスリンは昔語りをする様な、懐かしそうな顔をして目を閉じた。
「あのヒトは、誰かを守るために自分を犠牲にする事を何とも思ってないんです。
父が亡くなる時だって、あのヒトは自分を犠牲にしてでも守ろうとしていたんです。
しかし結果として…父は亡くなり、あのヒトはずっとその事を後悔して……
皆さんと旅をしている内に、少しは変わったかと思っていたんですけど、
やっぱり変わってませんでしたね………」
「あんたは不安じゃないのか? 自分の旦那が死ぬかもしれないってのに」
無神経なジェットの問いかけに、ヴァージニアのつま先が脇腹に入る。(げふぅッ)
キャスリンはフッと顔をうつむけた。
「あ、あ、あの、すみません、この人、クチの聞き方知らなくて。」
「確かに不安ではあります。」
キャスリンははっきりと言った。
「でも、大人の私でさえこんなに不安なら、
子供のケイトリンはもっと不安になってるだろうと考えると、
やっぱり……あんまり表に出せないじゃないですか。」
「クライヴは死んだりしませんよ。 ケイトリンちゃんが待ってる限り!」
ヴァージニアは強い口調でそう言った。
結局、治療は翌朝まで続き、次の日の朝早くにギャロウズとシヴィルが部屋から出て来た。
「はぁ………」
シヴィルが溜息をついて額の汗を拭うと、後ろにいるギャロウズも溜息をついた。
「あッ…クライヴは?」
ヴァージニアがシヴィルに彼の容体を聞くと、シヴィルは弱々しく微笑んだ。
「ひとまず、一命は取り止めました。」
その一言だけで、ヴァージニア達の空気が一気に軽くなった。
「ですが、あまり体に負担をかけるワケにはいかず、薬の投与もできないため…
しばらくは目を覚まさないでしょう。
抗生物質は投与しておきましたから、化膿や二次感染には至らないはずです。
念の為、目が覚めたり、何かありましたらすぐご連絡下さい。」
「ありがとうございます。」
キャスリンが頭を下げると、ヴァージニアは扉の前に立った。
「あの…様子、見ても平気ですか?」
「ええ、それは大丈夫ですが、くれぐれも傷口に触れたり、無理に動かしたりしないで下さいね。」
「はい……」
ヴァージニアはそう返事して部屋に入った。
部屋には消毒液と血のニオイが立ち込めていて、クライヴの静かで少し苦しげな寝息が響いていた。
シーツから少しだけ覗いている彼の肩には包帯がしっかりと巻かれており、
あの生々しくおぞましい傷口をしっかりと覆い隠していた。
眼鏡を外して眠りにつく彼の顔は、実に安らかであった。
麻酔が効いているのだろうか。 普通に眠っているかのごとく、寝顔が静かなものであった。
そんな寝顔を見ていると、尚更ヴァージニアは辛くなってしまった。
(ごめんなさい………)
ヴァージニアはその場で泣き出してしまった。
渡り鳥に危険はつき物。
しかし、目の前であんな事が起こればそんな事を言っているどころではなくなる。
ヴァージニアがすすり泣いていると、そこへギャロウズが入って来て、彼女の肩にポンッと軽く手を置く。
「助かったんだ、何も泣くこたないだろ?」
「でもッ…私を助けた所為で…クライヴは……」
「嬢ちゃんがクライヴをこんな目に合わせたワケじゃねぇだろ?
やったのはあのジェイナスだ。 嬢ちゃんが泣く必要はねぇよ。」
「………!!」
ヴァージニアは、ギャロウズの上着に顔を押し付けて泣いた。(さすがに肌蹴た胸では泣けない…。)
徹夜でくたばったギャロウズが眠りにつき、次に彼が目を覚ました時はもう次の日の朝であった。
「これからどうしようか。」
ソファでず〜っと顔をうつむけたままのヴァージニアが呆然とした様子で言った。
するとギャロウズは、水を一杯クチにして、眠気を取っ払ったところでクチを開いた。
「クライヴ抜きでヤツらの行動を止めるか?
あ。その前にもう一回フォーチューンギア行かなきゃ! ミーディアムが残ってるかもしれねぇし!」
「取りに行ってる時間があるのか?
次の神殿だって、どうせロクに覚えてねぇんだろ?」
ジェットがギャロウズに言うと、ギャロウズは「む〜」と唸ってしまう。
「それがよぉ……思い出さなきゃ思い出さなきゃとは思ってるんだが、
これがまた記憶ん中引っ掻きまわしても出て来なくてさぁ…」
「んじゃどーすんだよ! また後手に周るのか俺らは!!?」
「だったらてめぇは知ってんのかよ!! さっきから聞いてりゃぁ俺の意見ばっか否定しやがって!!
否定するんならてめぇも何かひねり出せよな!!」
「俺はガーディアンなんぞには興味ないからな、神殿の位置なんて知らないね。」
「くっはぁぁ〜ムカつくなッ!!! なんでこんな時に限ってこうも意見が噛み合わねぇんだよッ!!?」
「クライヴがいないからよ。」
ヴァージニアは冷静な声でそう言った。
「今までなら、ギャロウズが何か思い出せなくなっても、
クライヴがすぐにそれを引き出す様な言葉をかけてくれたから…
だから、今まで、色々な場所に行けたんだと思う。」
そう言って、ヴァージニアはふと暗い顔をした。
「…考えてみたら、私達、ずっと彼に頼り続けてたかもしれないね。
年長者ってだけあって、色々と知恵出してくれるし、色んな事にも気付いてくれたし。
私達が喧嘩してもすぐに止めてくれたし……
彼がいない今、チームの団結力がなくなってるのが、何よりの証拠よ……」
彼女の言葉に、ギャロウズとジェットは顔を見合わせた。
「……どうしたんだリーダー。
こういう時にこそメンバーを引っ張っていくのがリーダーの務めってもんじゃないかね。」
「リーダーだなんてクライヴが勝手にそう呼んでるだけよ。
ホントのリーダーはクライヴなんだ。」
ヴァージニアは、半ばヤケになってそう言った。
「クライヴは、色んな事知ってるし、色んな事もできる。
すぐに色んな事思いつくし、色んなアドバイスだってできる。
…私じゃぁできない事だって沢山できる。」
「だが、クチだけならお前がTOPだぜ。」
ジェットが皮肉混じりに言っても、ヴァージニアは軽く流してしまう。
「そうね。 クチだけだよね。私。」
「おいおいおいおい! リーダーがそんなんじゃマジで決裂しちまうぞ!
こんな時こそ、一致団結しなくちゃなんねぇんじゃねぇのか!?」
ギャロウズが言うと、ヴァージニアはとんでもないセリフを口走った。
「そうだね……何ならいっその事決裂しちゃおうか。」
「なッ!!!」
ギャロウズが「おい!」と叫ぼうとした時。
ジェットの左手が、ヴァージニアの右頬をひっぱたいた。
「お前がそれでどうする。」
静かな口調で、そう言って。
「……!」
ヴァージニアは驚いて目を丸くした。
「1回目に落ち込んだ時は……まだきっと引き返せた。
だが今は、こんなにも深く突っ込んじまってるんだ。 お前はそれを今更抜けようって言うのか?」
するとヴァージニアはガタン!と音をたてて立ち上がり、ジェットの胸倉を掴み上げる。
「お、おいおい!」
「だって!! 今まで私に何ができた!!?
ギャロウズの神官の力、クライヴの冷静な判断、ジェットの戦力!!!
その3つが今までの旅を支えて来たんじゃない!!
私、今までで1つとして何かできた!!?
みんなあなた達の実力でやって来た!! 私の力なんて、何の役にも立ってないッ!!!
あなた達の実力を盾に、自己満足してただけなのよッ!!!」
ヴァージニアの目には涙が浮かんでいた。
今までの旅の中で噛み堪えて来た涙がいっぺんに溢れて来た様にも見えた。
そんな彼女の涙を見たら、あのジェットでさえも言い返せなくなってしまう。
「そうではないと思いますよ。」
その時。 あのやんわりとした物腰の声がした。
ジェットとギャロウズは目を丸く見開き、ヴァージニアはハッとして顔を上げ、ゆっくりと振り返って見た。
するとそこには、ドアの縁にこそ手をついているが、確かに黒い上着を羽織ったクライヴが立っていた。
「…クライヴ……あなた、大丈夫なの…?」
「あんまり大丈夫とは言えませんがね。
…それより、リーダー? あなたは自分の実力に気がついていません。」
クライヴが穏やかな口調でそう言い、ヴァージニア達の前に、ヨタヨタとした足取りで歩み寄って来た。
「仮にリーダー抜きで今までの冒険をくぐり抜けて来たとしましょう。
おそらく、ジョリーロジャーでお別れ会をした時点で、チームは決裂していたはずです。
私達『渡り鳥』は、別にチームで行動しなくても、という理念を抱いているのですからね。
あなたの実力は…このチームの仲を取り持つ、言わば『つなぎ』の役割を持っているのですよ。」
クライヴがにこやかに最後の一言を言うと、ヴァージニアは目元を赤くして、また涙をこぼした。
「…やっぱりクライヴってスゴイね。 皆が納得行く言葉をちゃんと選んでる……」
「でもそれだけですよ。
あなたの様に、ココロの底から打ち震わせるほどの強い言葉のチカラは持ち合わせていません。
1軒の家を支えるのに柱が4本必要であるのと同じ様に……
やはりこのチームには、誰一人欠けてはならないんですよ。」
クライヴが言うと、ヴァージニアは涙を振り払ってニッコリと、目元が赤いまま笑った。
「ありがとッ♪ クライヴ。 私、少し自信ついたみたい。」
「つけ過ぎてテングになるんじゃねぇぞ。」
「ジェットぉ!?」(怒)
ヴァージニアが怒鳴ると、ジェットは逃げ出す。
それをヴァージニアが追い掛け…と、いつもの鬼ごっこが始まった。
「やれやれ………」
ギャロウズが呆れた様子で頭を掻くと、クライヴが「うッ…」とうめいて傷口を押えた。
「おいおい。 痛むくらいなら寝とけって。 俺達なら……あのリーダーなら、もう平気だからよ。」
「ハハハハ……なんかやっぱり心配でね。 息子娘が1度に3人もできたみたいで。」
「お前なぁ…」
ギャロウズが目を細めながらクライヴを支えて言うと、クライヴは微笑んでヴァージニアを見た。
「このチームは、誰かかれかが皆を支えることでまとまっているんです。
だから、誰か1人でも欠けたら不安定になってしまう。 そう、丁度家を支える柱の様にね。」
「あんたもなかなか詩人だねぇ。」
ギャロウズは目を閉じてそう言い、フッと口元を緩めた。
「これからも、よろしくな。リーダー補佐。」
「なんですかそれ。」
「リーダーが次に頼ってるからリーダー補佐。」
ギャロウズの言葉に、クライヴはアハハと笑った。
「補佐ねぇ……せめて副リーダーにしてください。」