ゼット、決意表明

魔族の中でも員数外(イレギュラー)。
魔族だから人間には相容れられない。
俺が生まれる前にヒアデスが滅ぼされた。
じゃあどうして俺はジークのだんなに……
この戦いに参加してるんだろうか………

俺の居場所は、このファルガイアのどこにあるんだろうか……

魔族の王、マザーが人間とガーディアンによって滅ぼされた。
そこからが、改めて魔族の故郷奪還作戦の始まりと言えよう。 だからこそ彼ら、鋼の四傑…ナイトクォーターズは人間とガーディアンに宣戦布告をたたきつけた。
その日の夜、魔族側は新たなる戦いの幕開けに乾杯していた。
「我らが故郷を滅ぼせし、憎きマザーは滅びた!!
 我らは、今こそ彼奴の手を離れ、自分たちの手で故郷を勝ち取るのだ!!!」
ジークフリードの高らかな訓示の後、魔族による宴が開催された。
場所は、星に手が届くくらい、世界で一番高いところ。(ゼペットの墓はたぶんないと思う)
彼らは火をたき、盛大に盛り上がっては酒を酌み交わした。
もっとも、騒いでいたのはアルハザードやイレギュラーズのメンツばかりで、ハーケンやブーメランは揺らめき踊る炎の陰で静かに酒を飲んでる程度であった。
そんな騒ぎから外れた場所で、独りの男がぽつんと岩の上に座っていた。
「どうした、ゼット。」
琥珀色の酒の入った杯を片手に夜空をぼんやり…どころかぼへーっと眺めていたゼットに声をかけてきたのはジークフリードだった。
「みんな楽しんでいるぞ。 道化たるお前が一番はしゃぎそうなものを…どうしたというのだ。」
「楽しんでますって!楽しんでないと思ってたんスか!?」
ゼットはあわてた様子で無意味に腕を動かしてみせる。
だが、それが空回りしていることを、ゼットは知る由もなかった。
ジークはフッと笑みを浮かべ、ゼットの隣にしゃがみこんだ。
「こたびの戦いは、熾烈を極めるものになるであろう。
 良いかゼット、今度ばかりは員数外(イレギュラー)たるお前にも
 大役を任せざるを得なくなるやもしれぬ。」
「マジっすか! お〜っしゃおしゃおしゃ!来た来た来たッ! そ〜いうの待ってたんだ俺は!」
たちまちゼットが素で元気を取り戻す。
その様子を見て、ジークはクククッと声を押し殺して笑い、ふと思い出したようにゼットに問いかける。
「そうだ、ゼット。 お前、ヒアデスの記憶はあるか?」
「へッ?」
「そもそも我らの戦いは、マザーによって滅ぼされたヒアデスに代わる、第2の故郷を手に入れる戦い。
 お前は、我らが母星ヒアデスのことを覚えているのかと聞いている。」
ジークにたずねられ、ゼットはえぇっと…と言い難そうに声を詰まらせる。
それに代わって、ジークがハッキリとした口調で答えた。
「ヒアデスを滅ぼされた時点で、我でさえ幼かったのだ。 若いお前が覚えていないのもムリはない。」
「…ジークフリード殿は、幼い頃のおぼろげな理想だけを支えに戦ってきたんスか?」
ある意味で勇気ある質問だと言えるだろう。
自分が貶められていることにも気づかないようなゼットは、他人を傷つけていることにも気づかないのだ。
しかしジークは、冷静に答えてみせた。
「おぼろげな幼いころの理想だからこそ、我は大事にしたいのであろうな。」
言って、ジークは空を見上げた。
「我の記憶にある故郷ヒアデスは、それはそれは美しく、居心地の良い世界であった。
 ずっとずっと続くと思っていた日常も、目に見える周りのものたちも、みな我の宝であった。」
「……俺が生まれた時は、もうファルガイアは戦争してたなぁ。」
ゼットがふとそうもらしたのを聞き、ジークはほう?と声をあげた。
「ならばお前は、ヒアデスの記憶は一切なく、マザーの顔すらおぼろげだったのだな。」
「ま、そんなとこッスかね。 でも、おふくろさんのことは“母親”って感じはしなかったな。」
「では、お前はこたびの戦い、どのような想いを抱いて臨む?」
唐突なる問いかけに、ゼットはほぇ!?と甲高い声で返事をしてしまった。
「ななな、なんスかいきなり! 練習なしのいきなり面接ッスか!?」
「まぁある意味面接だな。
 ヒアデスの記憶もなく、ファルガイアに魔族として生まれたお前にとって、
 この戦いは故郷を滅ぼされるのと同じはず。
 どのような想いを抱いて、ファルガイア奪回の戦いに臨む?」
その問いかけはまるで、この戦いを降りろ、と言っているようにも聞こえた。
しかしゼットは詰まる様子もなく、ニヒヒッと笑ってみせた。
「どのような想いも何も、俺は魔族ですぜ?
 ジークフリード殿のしようとしてるこたぁ、魔族にとって住みやすい世界を作るこってしょ?
 だったら、俺が反対する要素なんてどっこにもありゃしませんよ!」
言って、ゼットはすとんっと手すりの上に逆立ちし、そのまま空中でとんぼを切って手すりにつま先だけで立った。
「俺は魔族ゼット!!! 魔族に生まれたからには、やるべきことぁきっちしやらせていただきますよ!!」
(フフフン、ここまで言えば決まったも同然だろ!)
ゼットにとって、全ては出世のため。
この何気ない会話さえも、実は出世への一幕に過ぎなかったのだ。
しかしそんな道化芝居的な話を、ジークは信じ、フフンと笑った。
「ならばその言葉……深く受け止め、お前には重大任務を引き受けてもらうとしよう。」
「へッ!重大任務!」
ゼットはいっきに目を輝かせた。
よっしゃ!これで出世できる!とばかりに。
「例の人間たち…アレばかりは、我らが悲願の邪魔者以外の何者でもない……
 そこでだ、ゼット。 お前にはアレの足止めをしてもらう。 …これほどの重大任務、他にあるまい。」
「あの連中か…。」
ゼットはふふんと鼻で笑った。
「どうした? 随分余裕そうじゃないか。」
「いや〜、色々と連中を困らせる方法思いついちゃいましてね、天才肌ってのは閃きが肝心ってね!」
「そうか。 期待しているぞ。」

しかし、結局彼は彼に裏切られることになる。




ちょっと人間と暮らしてみた。
悪い気はしなかった。

でも、その分別れの時がいつくるのか不安だった。
だって俺は魔族。 人間に畏怖され、疎まれる存在。

そんなとき、アイツらがやって来た。
色々あって、俺はアイツらと一緒に戦うことになった。
ジークのだんなを裏切って、だんなを倒すことになった。

俺の居場所は   もうどこにもない。

またゼットは、あの日のように星の海を眺めていた。
あの日とは違い、今日の空は一段と星が瞬いて見えた。
星が瞬く時。 それは星が死ぬ瞬間でもある、とゼットはジークに教わったことがあった。
(今のファルガイアも、あんな風に輝いてるんかねぇ……。)
らしくないことを思い、ゼットはふぅとため息をついた。
(アイツらの話によると、ハーケンのねーちゃんが死んで、アルハのとっつぁんも倒れ、
 最後に残ったジークのだんなは、ファルガイアの大地を引き裂いて、あのお空の向こうで篭城………
 そして俺はこんなとこで………魔族のクセして人間の側について…)
「あ、ゼットまだ起きてたの?」
不意に窓から顔を覗かせてきたのは、宿の2階にいたロディだった。
(げ。 今一番会いたくないヤツ登場……)
ゼットは面倒臭そうに眉をひそめ、ステステとその場を退散しようとした。が、ロディは窓から飛び降りてきて、ゼットの真後ろに着地した。
危うく、トレードマーク(お気に入り)であるオレンジマフラーを踏みつけられてしまうところであった。
「寝てたんじゃねぇのかよ?」
「なんか目が覚めちゃった。」
「…眠れない時は難解な本を読むと良いぞ、少年。」
「何それ。」
妙な会話をし終えた後、ロディがゼットに「ありがと。」と言ってきた。
「ん? 俺はお歳暮もなんも贈っちゃいないぜ?」
いつもの口調で言うと、ロディはエヘヘと笑いながらゼットの前に立ってみせた。
「……ひょっとして…アレか、
 ワライタケの毒に含まれてるシロシビンやシロシンでも発生しておかしくなったか!?」
「…ホンット君って変わってるよな…。ちょっとニヤついてただけじゃないか。」
「なんだってニヤつく必要があるんでぃッ、さてはストーカーか!!? 嫌がらせが目的なのか兄弟ッ!!?」
「なんでそうなるんだよ、大体俺は君とは兄弟じゃないだろう! 俺が言いたいのは……」
言いかけてロディは一息ついて、それからもう一度微笑みかける。
「ついてきてくれてありがとうってことだよ。」
「まぁ、アイドル候補についてきてもらえりゃ、そりゃうれしいだろうよ!」
「…マジメに聞いてくれないとARMで撃ち抜くよ。」
ロディがゼットのコメカミに銃口を突きつけると、さすがに“同族殺し”の威力が恐ろしいのか、ゼットは黙り込んだ。
黙ったのを見て、ロディはARMを降ろして話し始めた。
「初めて船の上で君に勝ったとき、君は『世界にひとりぼっち』って言ったよね。
 あのセリフ、正直言うと、実は俺もそうなんじゃないかなって気がしてたんだ。」
「…は?」
事情を知らないゼットには、ロディが何を言っているのかわからなかった。
しかしロディは、にっと笑って淡々と喋る。
「俺、魔族でもなければ人間でもない、エルゥに作られたホムンクルスなんだって。
 だから体は魔族と似たような金属でできてるし、人間からも魔族からも敬遠されてるARMも使える。」
「オイオイオイオイオイ、いきなりとんでもカミングアウトかッ?
 なんか今サラッとものすんごいこと告発しなかったか!? 大体なんだよ、作られたホ、ホ、ほ〜………」
「ホムンクルス。 …ゴーレムの小さいやつだと思ってくれればいいよ。」
「………『作られた』ってのは? 大体何の理由があって?」
「対魔族用の兵器として作ったみたいだよ。
 だから、魔族の体をもとにして、魔族とほとんど体の構造を似せて……」
「待て待て待て、なんだってそんなペラペラと喋るんだ?
 聞いただけでも、それってかなり重要な秘密事項ってやつじゃねぇのか?」
「君だから話してるんだよ。」
ロディは、やはり静かな笑みをたたえたまま続けている。
彼の言葉に、ゼットはかなりうろたえた。
「…俺サマだから?」
「そうだよ。 自分を『世界にひとりぼっち』って言った君だから。」
ゼットにはまるで意味がわからなかった。
「セント・セントールで君に手を差し出したのは、ただ単に君の力を借りたかったからだけじゃない。
 自分のことを『世界にひとりぼっち』って言った君にも、教えてあげたかったんだ。」
さらにゼットは驚かされた。 ロディが、自分の両手をしっかり握ってきたのだ。
「俺、セシリアに教えてもらったんだ。 『世界にひとりぼっち』なヤツなんて、誰もいないんだって。」
「…ひとりぼっちだよ。」
ゼットがぽそりとつぶやいた。
「どうして?」
「俺は魔族だ。 だのに、かつて杯を交わしあった同胞と、今戦おうとしてるんだぜ。
 人間の中に相容れることもできなきゃ、魔族に反旗ひるがえした今となっちゃ
 魔族からも厄介者扱いだろうな。
 誰とも相容れ得ぬ存在ッ! これをひとりぼっちと言わずに何と言う、少年よッ!!」
「…セント・セントールで言ってたじゃないか。 命のカタチに勝手な制限つけられてたまるかって。
 あのとき言った君の言葉は嘘だったって言うのか?」
「クチでならなんとでも言える(自爆)!
 …けどな、人間の偏見や概念ってモンが、どうしても理想をふみにじっちまう。
 お前のARMだってそうだろ? 人間の間でも畏怖され、魔族にも“同族殺し”として恐れられている。
 …俺ぁ、お前がその手に持ってるモンと同じなんだよ。」
「………そんなことない。」
ロディが握り締めるARMを一瞥しつつ吐き棄てるように言い放つゼットに対し、ロディがフルフルと首を横に振る。
「そんなことないよ。 それは大きな勘違いだよゼット。」
「何が違うんだ少年ッ! この町に来た時だって、町の連中の視線が痛いくらいに……」
「それは君の奇怪な行動が原因だと思う。(汗)
 ……あのね、ゼット。 コレは、俺を拾ってくれたじいちゃんの受け売りなんだけどね、
 破壊のチカラを持つARMで、人の心を繋げることができるようになったら、
 世界はひっくり返ったように変わるんだよ。」
「…どういうこった?」
「詳しくは教えてもらえなかったんだけどね、
 この前、ちょっとだけこの言葉の意味がわかった気がするんだ。
 人々の畏怖の対象でしかなかったARMに対する、その畏怖や恐怖、不安の概念。
 それらをなくして、物事を見つめることができたら、
 人を疑ったりすることなく、いろんな人と手を取り合っていける。
 この方式を短縮化させて、『ARMで人の心を繋げることができる』ってことなんじゃないかなって、
 俺は考えてる。」
「かー、単純っ!」
ロディの言葉に、ゼットは額に手を当てて首を振った。
「どこの誰が並べた理論かは知らねぇがな、俺ぁ世の中そこまで甘くないと思うぜッ!
 第一、今お前が言ってのけた理論を遂行するには、
 まず人間の概念をどうにかしなくちゃいけないと思うぞ!
 人間は、問答無用で魔族を敵視し、畏れてるッ。 その力に近いARMも、問答無用で畏れてるッ。
 この概念がある限りは…」
「でも、ザックやセシリアはその概念を棄ててくれた。
 サーフ村にいるトニーや、そのお父さんも。」
そう言いながら、ロディはゼットの目の前に、丈夫そうな布を差し出して見せた。
ロディが作ったものなのか、そこにはゼファーの紋章が、滲んだ水溶インクで書き込まれていた。
「キッタねぇ布だな……俺でもこんなサイン描かないぜ?」
「希望のガーディアン・ゼファーの紋章だよっ!
 このガーディアンは、ARMを持ってる所為で抱いていた俺の絶望が消えた時、
 俺達の呼びかけに答えてくれたんだ。
 そして、このガーディアンが答えてくれたのは………
 一度は俺を恐れたサーフ村の人たちが、俺を受け入れてくれた時だったんだ。
 だから、このうれしかった瞬間を、いつまでも大事にしておきたいから、
 こうしてガーディアンの紋章を書き残したんだ。
 また俺の心に、絶望があらわれないようにね。」
そう言って微笑みかけた彼の目は、キラキラと美しくきらめいていた。
ゼットは、なんとなくではあるが、感覚的にそれこそが希望の煌きなのだと思った。
さっきからロディが笑みを浮かべている理由。 それが胸に希望を抱き続けているからだとしたら……?
(……らしくねぇ。 らしくねぇこと想像しちまった。 だが……)
「…悪くはねぇな。」
ゼットも、つられて笑みを浮かべた。
「コレが人間の抱く“希望”ってもんだってんなら…“希望”ってのは伝染病だな。」
「…はぃ?」
「お前がニーヤニーヤしてるから、なんだか俺サマまでニヤついてきちまったぃ。
 高くつくぜぇ? お茶の間アイドルに伝染病をうつすなんざよ!」
言って、ゼットは背中からドゥームブリンガーを取り出して、その切っ先を天へと向け、高くかざした。
「魔族ってのぁ、人間と違って寿命がない!
 ましてやまだまだお若いお肌ぴちぴちの俺様には、お前よりも時間がある!
 その時間を使って、俺サマは絶対ファルガイアを変えてやるぜ!!
 あぁそうだ、俺はお前のARMと一緒さ。
 それこそ、お前の言ったように、世界をひっくり返してやるぜ!!」
「ひっくり返したように変わる、だよ! 本当にひっくり返すな!」
真夜中に騒いだおかげで、ゼットは直後、寝室で眠っていたザックの枕ミサイルによって撃沈するが、撃沈する寸前に、彼はこんなことを思っていた。
 あぁそうだ。 ウダウダ考えること自体俺らしくねぇ。
 居場所がないなら作ればいい。 自分で作った場所だからこそ、俺が居られる場所なんだ!

それ以来、ゼットが真夜中に夜空を見上げてぼんやりすることはなくなった。
おまけに、あのでたらめちっくな喋りに磨きがかかり、ザックとの小競り合いが3倍近く増えた。
要するに元気が出たんだな、と思ってくれればありがたい。

遠い未来、ゼットの悲願(?)が達成されたかどうかについては、あえて語らないでおくとしよう。



もちろん、彼がお茶の間アイドルになれたかどうかについても。

仲間にできたゼット!
なんでかバトル中、気づけばいつもロディの隣にいるんです。彼。
かと思えば今度はロディの体の中に埋め込まれてたり(バグ!!?)
色々な芸当を見せてくれる彼が、ホンット大好きです。
ザックと並べて出しときたいんですけど、そうしたら女性陣が育たなくって…(汗)
とにかく、ザックに続いて、ゼット大好きだー!