ほんの、何気ない小さないじわるが

決して小さくはない傷を生み出してしまう

やっぱり、するもんじゃねぇなぁ……

いじわるなんてもんは……

忘れられない小さな形見
〜前編〜

「んやぁ〜 え〜お湯だったわ!」
宿の温泉は格別だった。
なんつーか、ホカホカでホワホワで、風呂上りの余韻がまた温かいんだよな〜これが。
自宅の風呂とはまた違う味わいってね。 ハハ、こんな事言う様じゃ俺ももうオヤジか?
俺の名前はボーマン=ジーン!
うら若き27歳、妻ありの戦う薬剤師さんだッ☆
「もぉ〜ボーマンさんオッサンクサイですよ〜。」
裏から、金髪の青年クロードが、のぼせた所為かヨタヨタとした足取りをしながらそう言って来た。
そのさらに裏では、背中に双頭龍を背負った、超不幸者紋章剣士アシュトンが、
「ウルルンしっかしりてぇ〜! ちょっとギョロ! 笑ってないで仰ぐの手伝ってよぉ!」
と、龍と漫才していた。(笑)
この3人だけでなく、実はもう一人、まだ湯に浸かっているヤツがいる。
最近どうも手足が冷えるらしい、エクスペル最強の剣豪、ディアス。
露店風呂だけに、湯の中と気温との差に耐えられないらしい。
変な弱みを見つけてしまったなぁ。(笑)
「あいつが長風呂とは、ま〜た面白ぇ一面見ちまったようで、なんか得した気分だなぁオイ。」
俺がふと言って目をやったのは、ヤツの脱衣カゴであった。
蒼や深緑に固められた衣服をまとう彼だったのだが……
なぜかその服の間から、似合いもしない赤い色が見えたのだ。
不思議に思った俺は、思わずそのカゴに手を伸ばし、その赤い色を掴んだ。
「ボーマンさん?」
「ちょっとそれ、ディアスの着替えじゃ…」
「お?」
その赤いものを引っ張り出して、俺は目を丸くした。
あの男が? なんでこんなものを?
それは、真っ赤に彩られた細くて長いリボンだった。
「おいコレ………」
俺がクロードとアシュトンにそのリボンを広げて見せると、2人も驚いてそのリボンに手を触れた。
「え? これって…………」
「女の子…が、する……リボンだよねぇ…?」
アイツがこんなもんを持っている事自体に驚いていた俺達であったが、
やがてなぜアイツがこんなもんを持ってるんだ?という疑問に当たった。
「どうしてディアスがこんな…赤いリボンを持ってるんだろう?」
「女装でもするのかよ?」
「あのディアスが? まさかぁ。」
なんて事を話していた。その時だ。
ガラッ!
突然、俺にとっては前、クロードとアシュトンの後ろにある浴場の扉が開く音がした。
「!」
その瞬間、俺はビックリしてそのリボンを放り投げてしまった!
俺の真後ろにあった水道で、カランッという音がした。……気がした。
見ると、浴場からまぁ色っぽい格好したディアスが顔を少ぉし赤くして、のっそりと出て来た。
「なんだ……まだいたのか?
 いつまでもそんな格好してると、風邪ひくぞ。」
「あぁ、まぁ、いや、うん。」
俺は曖昧な返事をして、慌てて服に着替えた。
服っつっても、厚手のパジャマなんだけどな。
ディアスは、何も気付かぬままに体を拭きながら脱衣カゴに手を入れる。
その様子を俺は黙って見つめる。
そこへ、ガバリと服を胸に抱き寄せたクロードと、
頭やら龍の頭やらにシャツをかぶせたアシュトンがこっちに寄って来た。
「ちょ、ちょっとボーマンさん!」
「良いんですか? リボン返さなくて!」
「あー、いや、それが…………」
「あれ…?」
俺達がヒソヒソ声で話していると、ディアスが似合わない声をあげて脱衣カゴを漁り出した。
その仕草に、俺の心臓が飛び跳ねたのは言うまでもなかった。
1撃目がすんごくデカくて、その衝撃が余韻を響かせて俺の呼吸を苦しくさせる。
ヤバイ。ニーネに隠し事がバレた時くらいヤバイ。
俺がそうこう思っていると、ディアスがこっちを見て来た。
「なぁ………ここにあったリボン…知らないか?」
「あの、それは…」
「リ、リボン? へー、お前リボンなんかしてたんだ?」
危うくアシュトンがバラしそうになった時、俺はすぐさますっとぼけて見せた。
すると、アイツのクチからさらに驚くべきセリフが聞こえた。
「参ったな………あのリボン……大事なピアスもついてたのに。
 やっぱり、小物だからってまとめて置くんじゃなかったかな。」
………ピアスだって?
俺は、顔から一気に血の気が引くのを感じた。
「何? お前ピアスもしてたの?」
俺が問うと、ディアスは「んー」と少し考えてから、照れ臭そうに少しだけはにかんだ。
「いや……正確に言えばアレ………セシルの……………妹の遺品なんだ。」
その言葉に、文字通り俺は顔面蒼白した。
本格的に…………マズイ。
「へ、へぇー。 それじゃ大変だなぁ。」
そう言って、俺は手早く着替えを済ませて、クロードとアシュトンを捕まえてそのクチを塞いだ。
「!」
「!」
2人はジタバタともがいたが、俺は2人の耳元に口を近付け、
「静かに!」
と小声で言った。
ディアスも、何気なく寂しそうだったが手早く着替えを済ませ、タオルとかを持って、
「お先に。」
と素っ気無く言って、脱衣場を出ていった。
アイツのスッスッと言う静かな足音が遠ざかって行くのを確認し……
脱衣場が完全に静まり返った時、俺は2人の口から手を離した。
『ぶはぁッ!』という声をあげ、2人は慌てて俺に詰め寄る。
「っどぉーするんですか!! あんなしらばっくれたセリフ吐いちゃってぇ!!」
「ていうか、なんで正直に返してあげないんですか!!」
「投げた。」
『はぁ!?』
2人が揃って叫んだ。
「いや、そのな? ディアスが浴場から出て来た時…………
 後ろに向かって投げちまったんだ。」
『後ろって………』
アシュトンとクロードは揃って俺の後ろにある水道に目をやり、目を点にさせて沈黙した。
「………んー………そうなんだ………」
『それって超マズイじゃないですか!!』
クロードとアシュトンが声をはもらせる。
そんなに言われなくっても俺だってマズイって事くらいわかってるっての!!
「で、で、どうするんですか!?
 水道には何もありませんけど!!?」
「あぁ、ないからこそ困ってるんだ…………って、え?」
アシュトンの言葉に、俺はバッと水道の方を向いた。
そこには、真っ白な水道があるだけで、リボンの赤はなかった。
「……ない。 ………ない、ないないないない!!!
 こっちに投げたはずのリボンがない!!!」
見れば、排水溝の穴がすごくデッカイ。
おそらく、リボンについていたピアスが重りとなって、この穴に落っこちて……
「あああああ〜ッ!!
 おぉれ確実にディアスに殺されたぁぁぁぁ!!」

俺は、そのリボンが戻って来る事はないと思った。
同時に。
バレたらディアスに斬り殺される!!!
………とも感じた。

風呂に入ったのが大体8時くらい。
それから数時間しても、相部屋のディアスは戻って来なかった。
相部屋っつっても、男子と女子に分かれてるってだけなんだけど。
「ディアス……どこ行ったんでしょうねぇ?」
クロードが、わざとらし〜く俺に向かって言った。
「ディアスさんって、妹さんを大事にしてたみたいだしね。」
アシュトンまで…………
一足先にベッドにもぐり込んでいた俺は、居辛いったらありゃしない!!
「わーったよ! 捜せば良いんだろ捜せばぁ!」
「何投げやりみたいな事言ってるんですか。
 大体ボーマンさんがいけないんじゃないですか。」
クロードが軽蔑の眼差しで言って来た。(シドイ!)
「そうですよ。 ボーマンさんですよ? あのリボン取り出したの!」
アシュトン、お前クロードに意見合わせてるだけじゃねぇだろうな?
とにかく、俺もまぁちょっとくらいはアイツが心配になってきたワケだし…
ベッドから這い出し、暖かな上着を羽織って靴をはいた。
「ちょっと、この辺捜してくる。」
「行ってらっしゃい。」(笑顔のアシュトン)
「ディアス見つけるまで帰ってきちゃダメですよ。」(極めて冷ややかな口調のクロード)
お前らいっぺん刻んだろかッ!!?(怒)


続くっつっても前編後編ってだけッスから。
よし、このまま後編もアップさせちゃおう。
即席で作ったものだし、前から考えてたものだし☆