裏切りの盟主

「というワケだ。 行くぜ。」
ジェイナスはそう言って僕に背を向けたまま走り出した。
その瞬間、僕の脳裏にはどうして今こうして僕がジェイナスと行動を共にしているのかの記憶が鮮明に呼び起こされた。

「ここで会ったが百年目ッ!!!」
二挺拳銃を構えてそう切り出したのはリーダーでした。
ホントに道端でばったり出会っただけなんですよ?
ジェイナスとロメロとダリオ。
…いや、リーダーの目は専らジェイナスに向けられていましたね。(後は背景扱い。(笑))
「おいおい嬢ちゃん。 いきなりソレはないんでないの?」
何を企んでいるのかわからない様な笑みを湛えたジェイナスは、肩を竦めながら言って来ました。
「俺ら見てみろよ。 何か良からぬ事を企んでそうに見えるかい?」
ジェイナスはわざと両手をフルフル振るわせて見せました。
しかし。
「そのテには乗らないわよっ!?
 あんたは何かを企むために生きている様なものなんだからっ!」
「ヒデェ……」
一瞬ホントにショックを受けた様な顔をしたかと思ったら、ジェイナスがふと僕を見てきました。
「おいアンタ。 一体娘にどんなシツケ施してんだよ。」
「娘じゃありませんよ。(怒)」
「似た様なもんじゃねぇか。 保護者である事には違いねぇんだろ?」
「違います。(キッパリ)」
僕が言った時。 ふとロメロが溜息をついた。
「違うっつってもそう見えちまうもんだぜ? 実際あんたが一番面倒見てそうにも見えるしな。」
「そう見えるだけでしょうが。 実際は違います。」
僕も少し怒ってたんでしょうね。 なんだか声にトゲが……
「大変なんじゃないのかぁ?
 後ろにいるイログロの兄ちゃんもなんかバカっぽそうだし……。」
「苦労してんじゃねぇの?」
ダ、ダリオにまで言われるとわ………(怒)
「あーあー、なんか同情しちまうねぇ。
 使えねぇパートナーの面倒見なきゃってトコ、ほとんど俺そっくりだわ。」
「アニキィ、そりゃねぇですよぉ〜。」
「うるせぇうるせぇ。 ホントの事なんだからしょーがねぇじゃねぇか。
 ……あ、もしかしたら俺の方がまだラクなのかもしれねぇな。
 なんてったって、緑頭のだんな(名前覚えろよ)はガキばーっか連れてるからな!はははは!」
「“物干し竿”持ってるだけに、本当におしめとか布オムツとか干してたりな!!!」
ぎゃははははははははっ!
3人の男達の豪快な笑いが飛ぶ中。 僕は密かにマントの裏地に縫いつけてあるポケットに手を入れました。
そこに何が入ってるのかと言うと…………
好い加減にしなさいよアンタ達っ!!!
怒鳴り声を発するのとほぼ同時に、僕は片手で2・3コは掴んだセットボムを、
力いっぱい3人の足元へ投げつけてやりました。
導火線は滞空している内に、あっと言うまに火薬へ辿り着き、彼らの足元へゴトンッと落ちる頃には

ごがあああん!!

誘爆誘って火力アップを図った連続的大爆発。(フッフッフ)
あっと言う間に3人は真っ黒に。(笑)
「………やりやがったな。」
ケホリと黒いススの混じったセキ払いをして、ジェイナスが僕を睨んで来ました。
「先にクチを出したのはそっちでしょう。」
「クチ出されたんならクチで返しゃ良いだろ。」
「いやぁそれは失礼失礼。 あまりにバカに見えたものですから、
 ひょっとしたら話が通じないんじゃないかと思って、原始的に仕返ししてやったまでですよ。」
「……話が通じねぇのはそっちの方なんじゃねぇか? この野蛮人。」
「いえいえ、アンタ方サルほどではありませんよ。」

ひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………

西部劇なんかで町の保安官とゴロツキがドンパチし合う寸前の様に、沈黙し合う僕らの間に西風が吹いて来ました。
そして、その風が静かに、ゆっくりと止んでいき………
ピタリとギャロウズの白い前髪すらも揺らさなくなった、その時!!
ざがんッ!!
僕とジェイナスはほぼ同時にARMのセーフティを外し、同時に構え、そして……

『おおおおおおおっ!!!』

同時に地を蹴り、間合いを詰め合いました!!    ところが。

ぼこぉ!

えーと、何て言いましょうか……。 ファルガイア全土は砂が詰まってて空洞な所なんてトンネルくらいしかないと思われていたのですが……
どういうワケか、多分僕のセットボム×3の所為だとは思うんですけど、
僕とジェイナスが丁度間近になったその中央から、
ぽっかりと巨大な穴が空きました。
おかげで空中に放り出された状態になった僕とジェイナスは、
「うおっ!!?」
「えええ!!?」
ヒュー―――――――――――――――――――――――――ン………
仲良く落ちて行きましたとさ。    めでたしめでたし。

















めでたいワケないじゃないですかっ!!

ええそうですとも、ちっともめでたくなんかありません。
「あいたたた……」
少しくらいの間気絶していたらしく、僕はぼやけた視界のまま目を開けました。
頭を振って、軽く目をこすって…。
辺りを見まわしてみると、そこはどうやら流砂の中らしく、
広く高い天井の洞窟のあちこちからは砂の滝が零れて来ていました。
「こういう所があるから渦砂(日本で言うところの渦潮)ができるんですねぇ。
 ……って感心してる場合ではありませんね。」
僕は独りそう言って立ち上がろうと、砂の地面に手を置いた、その時。
僕は砂ではなくやわらかい肉を掴みました。
そう、むんにゅっと。
「むんにゅ?」
僕はその「むんにゅっ」とした感覚の元を見てみました。
それはジェイナスの「手」でした。
そう、僕は砂の上に座っていたのではなく、ジェイナスの背中上に座ってたんです。
僕はちょっと動揺してしまい、うつぶせになったまま動かないでいる彼からバッと飛び退りました。
しかし今の彼は気絶しているらしく、何の攻撃もしてきませんでした。
ちょっとホッとしましたが、ここで僕はとんでもない事に気付いてしまうんです。

今なら…………殺れる。

我ながらなんて物騒な。
しかし、今ここで彼の息の根を止めておけば、後々ラクになる事は目に見えています。
正直僕は揺れました。
今ここで殺してしまうか、それとも助けるか。
かちゃり…
深く考えない内に、僕はもうガングニールを構えていました。
スコープを覗き込み、照準を合わせます。
狙うは………彼の心臓の裏側。
左手で誤差を修正し、右手の指が引鉄に掛かります。
動かないうえに、あれだけ大きな【的】なら、目をつぶっても射抜けます。
…ここまで準備を進ませておきながら、僕の右手は引鉄にひっついたまま動こうとしません。
撃たねば。 今ここで撃たねば。
時間が経てば経つほど、僕の心の揺れも大きくなってきます。
でも今ここで撃ったら、僕は正直後悔しませんか?
それを思うと、引鉄を引く指が動かない。
心の動きが体にまで現われたか、やがてガングニールを支える両腕がガタガタと震えだしました。
ダメだ……集中しなくちゃ……!!
「撃たねぇのか?」
不意に声がした瞬間、呪縛が解かれたかのごとく、僕の体はビクリと跳ね上がり、
咄嗟にガングニールを腕より下に降ろしてしまいました。
「それとも」
僕が【的】にしていた体が両腕をつき、ムクリと起き上がって、体についた砂を落とす……
「撃てねぇのか?」
ジェイナスは完全に体を起こし、いつもの笑みを湛え、ポケットに手を突っ込んで僕を見据えました。
先ほどの怒りが冷めているらしく、彼の眉はさほど険しく釣り上がってはいませんでした。
「何をバカな。」
僕がフイッと彼から顔を背けると、ジェイナスは「じゃあ」と言ってガングニールの銃口を掴み、自分の胸へ押し当てました。
「撃てよ。」
ジェイナスの低く掠れた声が、静かな洞窟に響き渡った。
僕は動けませんでした。
言われるままに右手を引鉄に添える……
簡単なことのはずなのに、なぜか体にチカラが入らなくて動けない。
洞窟に流れ込む砂のサラサラという音だけが耳を掠めていく………。
「なんだ、やっぱり撃てねぇんじゃねぇか。」
ジェイナスは「やっぱりな」という顔をして笑ってきました。
「どーやらここは砂海(デューン)の排砂溝の中ってトコらしい。
 て事は、だ。 砂海の魔獣がいてもおかしくねぇってワケだ。 違うかい?」
「……何を企んでいる。」
僕は自然とそう訊ねていました。
「企む? アンタ阿呆か?」
ジェイナスが嘲る様にして笑った。
「今の俺達がどう足掻こうとも、砂海の魔獣に勝てるはずがねぇ。
 となりゃ、お互いに協力し合って、助け合ってここを突破しない限りは、ここを出られねぇってワケだ。」
「最もらしい事を………そう言ってウチのリーダーを裏切って泣かせたのはどこの誰ですか。」
「ありゃぁ話が別だ。 だが今は俺自身もピンチだ。
 俺にはやらなきゃならねぇ仕事が腐るほど残ってんだ。
 そいつも片付けねぇままに死んで堪るかっつの。
 目の前にいる相方と協力すりゃなんとか上に出られるかもしれねぇってのに、
 そいつハメてどうこうしようなんて考えて何の得がある? 俺はムダな労力は控えたいんだよ。」
彼の言う事は、彼の考え方や主義から考えてみても最もだ。
しかし、僕はこの男を信用して良いのだろうか……………
「疑ってんならここで撃ち殺しても構わねぇんだぜ?
 俺はあんたと協力しないと出られないと踏んだ。 その前にあんたとの交渉が決裂したとあっちゃあ御終いだ。
 御終いになった計画を、改めてどうにかするってのは俺の主義とはちと違うんでね。」
言って、彼は両腕を広げ、その広い胸を僕に突き付けてきました。
「さぁ。 どうする?
 今ここでバリバリ役に立つパートナーを作るか、それとも目の前にいる敵を撃ち殺していくか………
 二つに一つ。 例外はありゃしねぇ。 どっちを選ぶんだ?」
ジェイナスの問いかけに、僕は最後までこの男を信じて良いのかどうか迷いました。
しかし、僕だって生きてここから出たい。
生きてここから出て、家族に顔を見せたい。
そんな欲望が、僕に答えを導き出してくれました。
「…………わかりました。 君を信じましょう。……その代わり、条件があります。」
「おう何なりと。」
ジェイナスが笑顔で言った時、僕はその笑顔の鼻先にガングニールの銃口を突き付けました。
「もし僕を利用しているな、と僕が察知した場合………その時は即座に君を射殺します。
 ……それで良いですね?」
「するワケねぇだろ?」
「もう1つ。
 ここから出た途端に後ろからズドン!ってのもなしですよ。」
「ハイハイ。」
ジェイナスはケッケッケッと笑って歩き出した。
「それじゃ行こうぜ。 切り込み役は俺で、迷路脱出の策を練るのはアンタ。 これで決まりだな?」
「ちょっと! 君は何も考えてくれないんですか!?」
「悪いけど、俺ぁ地学者じゃねぇんでね。
 そういう調べて考えるってのはアンタの方が向いてると思ったんだ。」
「協力するって言い出したのは君なんですから、こういう時もちゃんと協力しなさい!」
「あーもー、わかったよぉ……」

ジェイナスとクライヴっていうとんでもないタッグを組ませました。
でも、腕利きのスナイパーに、何でも応用の効く渡り鳥。
こんな2人が本当にコンビ組んだら最強じゃありません?(笑)
しかも御互いが御互いをちょっぴり疑い合ってるってトコがなんとも。(笑)