裏切りの盟主 ≪後編≫

結局………というかやはり、最終的には僕が脱出路を考えるハメになりました。
全く、最初から脱出路を知ってそうな顔して何の知恵も出してくれないんですから。(怒)
「おぉ〜、さっすが学者さん。 なんとなくだが上へ上へと昇ってる気がするぜ。」
「気がするんじゃなくて、昇ってるんですよ。
 この道を辿れば、多分昇りきれるはずですよ。」
「で、なんでここがそうなんだ、ってわかったんだ?」
「この区域にはボティスが住んでるんです。
 ボティスは岩壁に巣を作って、空気を補充するために地上にも穴を空けているんですよ。
 つまり、その空気穴を通っていけば、地上に出られるという寸法です。」
「なぁるほどねぇ〜。 こりゃ頭が下がるってもんですわ。」
「僕からしてみりゃ、そのデカい態度を小さくしてもらいたいもんですねっ。」
僕が低い声で言った時、不意に何か「ぶみゅりっ」と踏ん付けた感触に気づきました。
「ぶみゅり?」
その「ぶみゅりっ」とした感触を見るべく、薄暗い足元を注意深く見てみると……。
「………。」
「…アンタ何やってるんだよ〜……!」
僕が「ぶみゅりっ」と踏ん付けたモノ、それは………
ぴきゃあ〜っ!!!
ボティスの幼獣〜〜〜〜〜〜!!
幼獣は甲高く大きな声をあげて僕の足の下から素っ飛んで逃げて行きました。
「お、おい、今、大声あげて逃げていったよな。 て事は…。」
「…母親を呼んで、母親の元へ逃げて行っ……」
チ〜ン……
僕の一生は終わった…と思いました。
案の定、と言えば良いのでしょうか。
さっきの幼獣が他の兄弟らしき魔獣を連れて来て、僕らの前に再び現われたのです。
「こ、こりゃあ…袋叩きにしようって算段か?」
「幼獣相手なら、君のマルチブラストで追い帰せるんじゃないですか?」
「効くかねぇ…ま、やってみるけどな。」
言って、ジェイナスがバイアネットの弾装をチェンジした時。
ボティスの幼獣達が先に動きました。
「うぉ!!?」
まずジェイナスが虚を突かれ、バイアネットを抱えたまま幼獣達に奥へと運ばれて行ってしまいました。
「あ、ジェイナ…うわっ!!」
言ってる間もなく、僕も残った幼獣達によって担ぎ上げられてしまいます。
そうして、僕ら2人は幼獣達に奥へ奥へと運ばれて行きました。
「なぁなぁ。もしかして、上へ昇って行ってないか?」
「マズイですよ。 ボティスは地上からそんな深くない所に巣を作ってます。
 このままじゃ僕達、ボティスの晩餐会にご招待されてしまいますよっ!」
僕が言うと、ジェイナスは僕の背中にあるガングニールを指差した。
「晩餐会に招待されるってんなら、盛大に出迎えてやろうじゃねぇか。
 向こうに着き次第、ドンパチ開始と行こうぜ!」
「あのねぇっ!!! さっき君が言った事じゃないですかっ!!!
 砂海の魔獣相手に、僕らがどう足掻いても勝てるはずないって!!!」
僕が声を高くして怒鳴ると、ジェイナスはフフンと頼もしい笑みを浮かべて見せた。
その笑みは、おそらく敵として対峙している時は小憎らしいと思える笑みだった事でしょう。
しかし今は、悔しくもすごく頼もしい笑みに見えた……。
「渡り鳥が2匹もいるんだぜ?
 渡り鳥ってのぁ、窮地に活を見出し、その道を進んで生き延びる……
 そういう強ぇ生き物じゃなかったのかい?」
こいつが言うと全てがウソっぽい。(笑)
とか言ったら何も始まらないので、ここはその嘯きに乗ってみる事にした。
「で? 具体的な策はあるんですか?」
「さぁな。 実際にその場に立ってみねぇと、浮かぶ策だって浮かびやしねぇ。」
「ぶっつけ本番というワケですか。」
僕は背筋に冷や汗が走るのを感じた…
「計画に計画を練るタイプのアンタには向かない戦い方みてぇだな。」
「フン、そんな事ありませんよ。」
「いーや、ムリはするもんじゃねぇよ緑頭のだんな。」
ジェイナスがニヤけながら、そしてバイアネットにマルチブラスト用の弾装をセットしながら言った。
「…空気が変わって来た………そろそろ着くみたいだぜ?」
ジェイナスがちっとも緊張していない様子で言って来たのに対し、僕は緊張に眉を吊り上げました。
ものスゴイ速さでボティスの幼獣は道を駆け上り、やがてものすごく広い空間へと走り出た。
幼獣はその場で急ブレーキをかけて止まりましたが、上に乗っていた僕とジェイナスは慣性の法則で前方へと吹っ飛ばされ、広い空間の中央まで来てどすん!と背中で着地してしまいます。
「あいたたたた……。」
僕が背中をさすっていると、僕のコートの裾をグイグイとジェイナスが引っ張りました。
「何ですか。」
「何ですかじゃないって。さっさと」
ジェイナスが言い終える前に、僕の体は彼に抱き込まれ、その場から素早く離脱しました。
その数秒後に、ついさっき僕らがいた場所には20匹あまりのボティスの幼獣が、
まるで連続ミサイルの様に次々と飛びかかってきて……
もし僕らがあのままあそこに止まっていたら、きっと僕らは彼らのエサとなっていたことでしょう。
「…た、助かりましたよジェイナス……。」
「助かったってのは、この場を抜け出してから言え。」
いつになく緊張が走った様子でジェイナスが言った。
(ジェイナスでもこういう緊張する場面があるのですねぇ。)
呑気な感想を胸の内で述べ、僕はジェイナスから降りてガングニールを構えます。
「この軍勢を相手に、1匹1匹殺ってくのか? 日が暮れちまうぜ。」
ジェイナスがその銃口に手を当てて言った時、僕はようやく気付きました。
円形の広い部屋の壁には小さな穴が無数に空いており、
その無数の穴からもまた無数のボティスの幼獣が顔を出していたのです。
しかも部屋の中央には、まるで崇め奉られている神の偶像のごとく、巨大なボティス(成獣)が居座っていました。
「あんたはどっちかっつーと、一撃で相手を仕留めるタイプだからな。
 ザコ散らしは俺に任せて、あんたは突破口でも開いててくれ。」
「なッ、ちょっと!」
僕に背を向けて歩き出すジェイナスの背に死相を見た気がした僕は、思わず彼の手を引いていた。
しかしジェイナスは僕の方を見ぬまま
「数秒未来を見透かすスナイパーのチカラ、得と見せてもらうぜ。」
と言って、僕の手を振り解き
「というワケだ。 行くぜ。」
ジェイナスはそう言って僕に背を向けたまま走り出した。
その瞬間、僕の脳裏にはどうして今こうして僕がジェイナスと行動を共にしているのかの記憶が鮮明に呼び起こされた。
元はと言えば、僕がセットボムで地面に穴を空けたのが悪いんじゃないか。
なのに、彼はその事にこれまで一切触れず、それどころか僕に突破口を託して走り出した。
突破口がないワケでもない。
ただ、僕はジェイナスという人間がわからなくなってしまい、戸惑っていた。
彼のバイアネットが咆哮をあげ、マルチブラストが展開される。
銃弾の雨を受け、ボティスの幼獣はあっと言う間に数十匹は絶命していく。
その威力に呆気に取られながらも、僕は手を動かしていた。
ハンフリースピークのARMマイスター、カンセコより試作品の弾丸を頂いたので、それを撃ってみる事にしたのだ。
以前、堅い甲羅に覆われた巨大な魔獣相手に梃子摺った話をして数日、僕が旅立つ際、
カンセコは貫通力のある弾丸を3ダースほど僕にくれたのです。
試作品だから、もしかしたら暴発するかもな。と笑いながら言っていた彼ですが、彼はヘタしたら僕よりもガングニールを知る人。
ガングニールに合わない弾丸を作るほど阿呆ではないはずです。
カンセコ命名「スパニッシュショット」。
箱にはわざわざいれたのか、そんなロゴが入っていました。
そう、実は今回が初めての試射なんです。
だからどれくらい通用するのか、正直わからないんです。
…え? 僕は何を撃つのかって?
わかっている人にはもうわかりきっているはずですが、あえて答えましょう。
「狙うは……」
僕はスパニッシュショットを装填し、ボティスの腹部に照準を合わせました。
そう、ジェイナスが幼獣を狙うなら、僕は成獣。
僕が成獣を倒す時間稼ぎをするために、
彼は自ら幼獣を相手しに行った…と、できれば信じたいですねぇ…
ボティスは、背中こそ堅く細かい鱗に覆われていますが、砂海を泳ぐため、
腹部はそんなにびっちりとウロコがあるワケではないのです。
どちらかと言えば、大きく薄い甲殻が、蛇腹になって腹を包んでいる…というか。
とにかく、僕が狙うのは、その甲殻と甲殻の隙間。
そこなら少しはやわらかいだろうし、内臓も詰まっていて弱点と言えば弱点になるはず。
じゃこっ。
いつもとは違うスタンバイ音に、少しの不安を抱えつつも、僕は引き金に指を添えます。
ところが
きしゃあああああああっ!!
高い声をあげて、幼獣が僕の背後から迫って来たのです!!
「な!」
僕が顔を上げてそっちに気を取られると
ギャウン! ジャアアアッ!!!
何発目かのマルチブラストが展開され、銃弾の雨は僕の足元をチュイン!とかすめた所で、僕の背後にいた幼獣を葬った。
「言ったろ。 ザコ散らしは任せろって。」
ジェイナスが背中を向けたまま言った時、僕はハッとした。
彼がそう言った頃には、全ての幼獣が彼のマルチブラストによって倒されていた。
あれだけ沢山いた幼獣を、ほんの数秒で全滅させるとは。
僕も負けていられませんね。
僕はがっきり狙いを定め、ボティスの腹部目掛けて………
その時。 またも僕の心を揺らすモノができてしまった。
ジェイナスが、背中を向けたまま両腕を広げたのだ。
その背中は、まるで「撃ってみろ」とでも言う様な………
その正面に、ボティスが子供を殺された怒りでシャルルルルッとノドを鳴らして怒りを表明していた。
その目は、ジェイナスに向けられている。
マズイ!!!
しかしここでも僕の脳裏には選択肢が現われた。
1つはこのまま黙って引き金を引く。
もう1つはジェイナスをボティスに殺させ、ジェイナスが死んだところでボティスを撃ち抜く。
だが僕はもう、迷わなかった。
(例えどんな悪党だろうと悪漢だろうと外道だろうと下郎だろうと、
 今の今まで、協力しあった仲間じゃないですか!!!)
その【答え】を出した瞬間、僕は引鉄を引いた。
ガングニールがいつもとは違う衝撃を僕に伝えて、スパニッシュショットを撃ち出す。
弾丸は狙い通りの軌道を進み、真っ直ぐボティスの腹部へと進む。
その衝撃を全て受けきった瞬間、僕は走り出した。
スパニッシュショットはボティスの甲殻と甲殻の隙間を突き抜け、内臓まで到達すると、そこで
ぼむっ!!!
内臓してあった強力な火薬を暴発させ、ボティスを体内から打ち滅ぼす。
ボティスは苦しげな咆哮をあげてのた打ち回る。
その振動が地面・天井・壁を揺らし、僕の足元を危うくさせる。
でも僕は、転ぶワケにはいかなかった……!!
「ジェイナスッ!!!」
そう、未だボティスの目の前で仁王立ちしているジェイナスを、ボティスの下敷きにさせないために。
ジェイナスまで届いた途端、僕はその場でもう1発ボティスの腹に見舞ってやる。
1度成功すれば2度と外さない。
甲殻と甲殻の間を突き破って入り込み、内臓地点で爆破。
ボティスが青緑色の血を吹き上げながら暴れる中、僕はジェイナスの腕を引いて走り出した。
ボティスが暴れて地面が揺れ、僕はついに足をもつれさせて倒れてしまう。
「あいた!」
「ったく。」
ジェイナスが僕の後ろでそう言ったのが聞こえました。
「もう1発くらい撃ち込んどいた方が良いんじゃないか?
 このままじゃ、俺らも潰されちまうぜ?」
ジェイナスがイタズラっぽく言うので、僕はその場から狙いを定め、ジェイナスのリクエスト通り、
ボティスの腹の甲殻と甲殻の隙間にブチ込みました。
もう一度爆発の音がした時、ボティスはついに暴れるのをやめ、その場に崩れてゆきました。

魔獣は……特に砂海クラスの大きな魔獣は、消滅する際光の雪を降らせます。
学会や書物などによれば、これらは消滅する魔獣の魂が具現化したものだとか。
小さいマテリアルみたいなものでしょうかね。
実際僕も間近でゆっくりと見たのはこれが初めてなんですけど、結構美しいものなんですよ。
滞空している時はフワフワとホタルみたいに舞い散って……
地面についたら乾いた大地に吸収されてしまうかの様に消えてしまう。
まるで、現代(いま)を生きるファルガイアの命を見ている様…………
そんな光の雪を浴びながら、僕はジェイナスと背中合わせに座り込んでいました。
「なんで助けた?」
ジェイナスは僕の背後で、頭の後ろで手を組みながら訊ねてきました。
「どうしてあの場から動かなかったんです?」
質問を質問で返すなとは良く言ったものですが、ジェイナスはアッサリと答えてくれました。
「あんたは助けてくれたじゃないか。」
やれやれ。そう答えますか。
「僕はただ………今の今まで協力してくれた仲間を助けようとしたまでですよ。
 ………こんな理由じゃ、君には甘っちょろくて不服ですか?」
「いーや?」
ジェイナスはくつろぐ様にのんびりとした口調で言いました。
「それとも………【裏切りの盟主】様に【仲間】なんて不要…………ですか?」
僕が言うと、ジェイナスはフフンと笑った。
「そうだな……俺にとっちゃ【仲間】なんて、裏切るためにある様なもんだからなぁ……」
「じゃあ僕も裏切りますか?」
僕は嘯きついでに言ってみました。
顔は、ジェイナスの方を向けて。
ジェイナスもいつの間にか僕の方を見てました。
その口元はジャケットのエリで見えませんでしたが、彼は改めて体をこちらに向け、
不敵な笑みと共にバイアネットの切っ先も向けて来ました。
右手が引鉄に掛かり、その銃口が僕の額に照準を合わせた……。
僕は何も考えぬまま、そして目を逸らさぬまま、ただジェイナスを見つめていました。
なんでだって訊かれても困りますけどね。
チャカリ……
金属音をたてて、ジェイナスはバイアネットを降ろしました。
「やめとくよ。」
笑いながら、そう言って。
「俺が裏切るのは、その先に俺の利となるものがあるからだ。
 だが、今あんたを裏切ったところで、俺の利になるものなんざ何もありゃしねぇ。
 …それに、せっかく『盟主様』とまで言ってくれてる人を裏切るなんて……って感じしねぇか?」
「君のクチからそんなセリフが聞けるなんて驚きですよ。」
僕は目を閉じて笑い、ジェイナスから顔を背けました。
「ついでに、折角ここまで協力しちまったんだしよ、アンタを嬢ちゃんとこまで連れてってやるよ。」
言ってジェイナスは立ち上がり、僕の目の前まで歩いて来ました。
僕は思わず笑いをこぼしましたよ。
「そんな事したら、またリーダーが目くじら立てて、ドンパチ騒ぎが始まっちゃいますよ。」
「なぁに、そん時ゃ盾にでも使わせてもらうさ。」
言って、ジェイナスが手を差し伸べて来た。
記憶の遺跡の時も、こんな感じに握手して、そしてリーダーは裏切られたワケですが………
なぜだか、僕はこの手は信用しても良い気がしました。
差し伸べられた手を掴み、ジェイナスに支えてもらいながら立ち上がり、僕らは地上を目指して、共に歩き出しました。

あ………
こういうのってスゴク好き。
敵同士(それも直接的なライバルじゃない敵同士)が手を組んでうんぬんっての。
なんつーか、ジェイナスがかなり大人しく良い人〜〜になっちゃってる気もしますが、
ジェイナスにだって人間性は少ぉぉ〜しくらいはあると思うから。(笑)
それを少しでも信じたって良いでしょ?

ちなみにオマケ絵については……
こいつらも「アニキがいないとぉぉ〜!」みたいにヴァージ達に泣き縋ったんでしょな。(笑)
ヴァージ達も「クライヴを放っておけないわ!」みたいになって、
こいつらを利用……………いやいやいやいや。(笑)

今回もまたかなり世界観作りました。
ファルガイアに雪が降るか? ファルガイアにホタルなんかいるか?
ていうか魔獣が消滅する時光の雪なんか降るか???(FF]の幻光虫じゃあるまいし)
色々とキリマがゴリ押ししてる気もしますが、皆がキレイなイメージを抱いてくれれば幸いでし。